No.024 特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

No.024

特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

Visiting Laboratories研究室紹介

住民の幸福度の向上を都市計画の成果を測る尺度に

北詰教授、瀧谷さん、岡村さんへの取材は2020年10月14日にリモートで行われた。
北詰教授、瀧谷さん、岡村さんへの取材は2020年10月14日にリモートで行われた。

TM ── 評価項目の中に幸福度という尺度を入れているそうですが、住民の幸福度を評価するねらいは何でしょうか。

北詰 ── 街づくりのテーマの中に、住民の健康の維持・向上に着目した街づくりというものがあります。住民の健康という概念は結構多様な側面があり、指標を定義することは困難です。しばらく医者に行っていないとか、一日1万歩歩いて元気に過ごしているとかといった様子を健康な状態と考える人もいるでしょう。その一方で、元々介護が必要な人にとっては、自分でご飯が食べられる状態や遠方の友人に会いに行ける状態が健康なのかもしれません。

心身が健康な状態とは何か。こうした問いを突き詰めて考えれば、結局、住民の幸福度に帰着するのではないかと思い至ったわけです。

幸福度には、経済力のように客観的に評価できる項目もあります。しかし、一人ひとりの価値観や性格、環境に根ざした主観的な項目もあり、誰の目にも不幸だと思える状況の人が、実はとても幸せに感じているという例も実際にあるのです。私たちは、客観的に見て幸せかどうかを評価する一方、アンケートで本人に幸せであるかどうかを聞き、結果がどれくらいズレるものなのか研究しています。

TM ── 都市計画に幸福度を活かす際には、住民の平均値を高めるようにするのでしょうか、それとも一人ひとりに目配りした施策を考えるのでしょうか。

北詰 ── 都市計画を考えるうえで、住民の公平性は古くから議論の対象になっていました。しかし、未だに解決できていない研究者にとって禁断のテーマになっています。ただ、幸福度を活かす際のアプローチは大きく二つあります。

一つは、みんながとにかく幸せで、その度合いがみんなで高まればいいという指針で都市計画を考えることです。お金持ちも、貧しい人も、お年寄りも、若い人も、働いている人も、働いていない人も、どんな人でもいいから総合的に幸せになればいいという考え方です。施策例としては、小学校や公民館、公園などをできるだけ均等に分散配置するといったものです。

もう一つは、一番不幸な人を救うことを優先して、全体の幸福度を底上げするという考え方です。収入のない方、住宅を追い出されてしまった方に公共住宅を提供するといった施策がこれに相当します。現在は、これら二つを混在させながら都市計画が進められています。

TM ── 海外には、幸福度を基にした都市計画をしている例はあるのでしょうか。

北詰 ── 幸福度を直接活用しているわけではありませんが、費用便益分析を幸福度を基にした都市計画に近いものだと捉えることもできるので、そうした意味では先進諸国はほぼすべて行っています。単純に経済効果に換算できない便益も含めて総合的に評価して、幅広く住民の幸せにつながる事業を推し進めるような取り組みは、世界各国の多くの自治体が行っています。

ただし、幸福度という評価の尺度は、国連のような国際機関が各国の状況について語る場合には納得感があるのですが、評価者によって結果に差が出やすいので悪い評価を下された都市の住民には受け入れがたいものになりがちです。このため、都市計画の達成度を測る指標としては使いにくい部分があります。多くの研究者が、広く納得感が得られる幸福度の計測手法を模索している状態です。私の考えでは、住民の納得感もさることながら、都市計画に利用することを見据えれば、あまり複雑なメカニズムの評価はせずに明快な結果が得られることこそが重要だと思っています。

[図1]地方公共団体における行政評価の導入状況
出典:総務省:『地方公共団体における行政評価の取組状況等に関する調査結果』2017
地方公共団体における行政評価の導入状況
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