No.017 特集:量子コンピュータの実像を探る

No.017

特集:量子コンピュータの実像を探る

連載01

ネット革命第2波、ブロックチェーンの衝撃

Series Report

自動販売機の運用は元締めがいないとできない

また、ビットコイン向け技術では、一定期間中の取引を参加者が承認し、合意形成できるまでに10〜60分程度の時間が必要になる。こうした、合意形成に至るまでの処理プロセスのことを、「ファイナリティ」と呼ぶ。10 〜60 分程度の時間は、大きなお金や資産をやり取りする場合には、十分速い処理時間なのかもしれない。しかし、小口のお金や価値の取引には向いていない。野村総合研究所は、先に紹介した経済産業省発行の報告書の中で、ビットコイン向けブロックチェーンを小口のお金や商品を扱う機器に応用した場合の問題点として、以下のような興味深いたとえ話を紹介している(図5)。

[図5] 即時性が要求される小口の取引では、ブロックチェーンの活用が困難
作成:伊藤元昭
即時性が要求される小口の取引では、ブロックチェーンの活用が困難

「現行の自動販売機は現金を入れてボタンを押すと、投入された金額が商品の売価を満たしていれば即時に商品を排出する。一方、ブロックチェーンで管理されている自動販売機の場合、現金を投入した時点で、まず現金が投入されたことをブロックチェーンに記載し、そのブロックが承認されるまで処理を待つ。ビットコイン向けでは最短で10 分程度掛かる。そして投入金額が確定した時点で今度はボタンを押すことになるが、この注文処理の記録にも同様の時間が必要となる。さらに、注文処理が実際に正確に履行されたか、お釣りはいくらか、といった各工程で10 分以上の時間が必要だとすると、そのような取引は実ビジネスでは成立しないであろう」。

管理者となる第3者を置くプライベートチェーンなどでは、ファイナリティの条件を管理者が適切に定義すれば合意形成に要する時間を短縮できる。また、PBFT*7と呼ばれる合意形成手法を用いることでも、ある程度は対処できる。ただし、現状の技術では、ミリ秒単位まで時間を短縮することは難しい。応用分野の開拓では、こうした点を念頭に置きながら進める必要があり、ファイナリティに要する時間を劇的に短縮するためのブレークスルーが待望されている。

その他にも、ビットコイン向けブロックチェーンには、「取引が発生した時刻を台帳に記録できない」「取引記録が蓄積して台帳の規模が大きくなるとノードの蓄積容量が圧迫される」「一定時間内に処理可能な取引件数に上限がある」といった課題もある。そこで、こうした課題を軽減するために様々な手法が提案され、ブロックチェーンの応用拡大に道を開いているところだ。

現在、様々な切り口から改良されたブロックチェーンの派生版は、多くの企業や機関によって多様な用途への応用が加速している。取引や契約が発生するところ、必ずブロックチェーンの応用が検討されていると言っても過言ではない。次回の第3回では、仮想通貨以外の応用の具体的な例を紹介する。

[ 脚注 ]

*7
PBFT:Practical Byzantine Fault Toleranceの略。特定のノードに合意形成の権限を集中させる合意形成の仕組みである。

Writer

伊藤 元昭(いとう もとあき)

株式会社エンライト 代表

富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。

2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

URL: http://www.enlight-inc.co.jp/

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