No.018 特集:スマートコミュニティと支える技術

No.018

特集:スマートコミュニティと支える技術

連載01

半導体チップの再生可能エネルギーへの応用

Series Report

マイクロインバーターの登場

これまで、ソーラーを大規模化してメガパワー(MW以上の規模)まで引き上げる場合には、パネルを直列接続して使ってきた。そのため、どれか1枚でもパネルが日陰に入ったり、落ち葉や鳥の糞などの汚れが付いたりすると、全体の効率が落ちてしまう。これを解消するために、ソーラーパネル1枚ごとにインバーターを付けるマイクロインバーター方式が提案されている。これは各ソーラーパネルごとに100V商用の交流電圧に変換するため、一部のパネルの効率が落ちたとしてもシステム全体への影響は小さい。

ソーラーパネル1枚だけで運用可能であれば、公衆トイレの屋根、バス停、公園の休憩所などにも設置できる。また、パネルを複数枚使って戸建ての家に設置する場合にも、設置場所の自由度が広がる。これまでは、日陰にならないよう考慮しなければ効率を維持できなかったが、マイクロインバーター方式であれば、そうしたことを気にせず設置できる。

マイクロインバーター方式では、パネル1枚当たり直流40〜60V程度の低い電圧から交流100Vへ昇圧するが、最大出力電力が180〜300Wの範囲に収まるように設計するため、パワートランジスタはIGBTでなくてもパワーMOSトランジスタで十分制御でき、部品コストはそれほど高くならずに済む。つまり、SiCやGaNのような高コストの部品を使う必要はない。

ソーラー発電特有の技術として、MPPT(Maximum Power Point Tracking:最大電力値追跡システム)と呼ばれるシステムがある。ソーラー発電では起電力がわずか0.8V程度しかないシリコンのセルを数十個直列接続して、パネル1枚につき数十Vの電圧を出力している。そして、もし1セルが日陰に入り発電しなくなると、そのセルだけをショートしてパネル全体への影響を少なくしている。その分、電圧が下がるので、できるだけ効率の最大化を図りたいわけだが、それをアシストしているのがMPPTシステムである。

太陽電池はゼロ電圧で動作し、光照射によるリーク電流の大きなフォトダイオードである。図5右のように、電流I-電圧V曲線は0Vで最大の電流が流れ、ある程度の電圧で急速に電流が下がり、セル1個につき0.8Vくらいになると0Aになる(参考資料3)。つまり、セル1個が枯葉などで覆われると電流はほとんど流れなくなり、まるでオープン状態になる。これを防ぐため、逆方向にダイオードを並列に設置し、このセルがオープンになると電流が流れるようにしておく。つまり実質的にショートにさせるのである。その分もちろん発生電圧は0.8V減ることになる。

[図5] 電力が最大になるように調整するMPPT手法(左)と太陽電池の電流-電圧特性(右)
出典:ON Semiconductor(Fairchild Semiconductor)
電力が最大になるように調整するMPPT手法(左)と太陽電池の電流-電圧特性(右)

この曲線を電力P-電圧Vで表したのが、図5左である。この図は電力値にピークがあることを示している。ソーラー発電システムの目的はあくまでも電力を取り出すことであり、電圧を上げることではない。だから電力が最大になるように調整する。これがMPPTシステムである。これは出力電流を検出し、その値が最大よりも下がっていれば、電力が最大の点に来るように調整する。

このMPPTシステムは、マイクロインバーターにも組み込まれている。従来のソーラーシステムでは、複数のパネルを直列に配置したシステム全体を、1つのMPPTで調整していたが、マイクロインバーター方式では、1台に1つMPPT回路を入れている。このため、マイクロインバーター方式のパネルは、必要な電力に応じて枚数を増減できるという拡張性があり、非常にシステムを作りやすい。このMPPT回路にもパワートランジスタは使われており、電力調整を行っている。

水力もマイクロで復活へ

最後に、最近再び注目されている水力発電にも触れよう。水力発電は川の流れを利用して発電機を回す仕組みであるため、まず交流を発生させ、それを直流に変換して変動をゼロにしてから、発電した電力を送電網に送り出す。従来は貯水ダムを建設し、放水しながらタービンを回すことで発電していた。しかし、ダム建設には住民の理解が必要なだけではなく、環境破壊にもつながることが明らかになったため、かつてのように貯水ダムを新たに作ることは難しい。

[図6] 小川の流れを利用する水力発電
出典:NTN
www.ntn.co.jp
小川の流れを利用する水力発電

そこで、各地域を流れる小川に、小型水力発電タービンを設置することが検討されるようになった。いわば水力のマイクロインバーターである。これからは中小規模の水力発電が重要な電源の一つになる、という見通しを経済産業省資源エネルギー庁が打ち出している(参考資料4)。この6月にはボールベアリングのメーカーであるNTNが、系統連系の送電線網へ売電できる小型水力発電システムを発売した(図6、参考資料5)。水力発電は小型化することで、再び日本でも利用されることになりそうだ。

連載3回目は、スマートグリッドのような送電網に再生可能エネルギーを導入する場合の制御や、スマートシティでの再生可能エネルギーの導入、それにまつわる半導体について議論する。

[ 参考資料 ]

1.
富士電機ホームページ、風力発電
https://www.fujielectric.co.jp/products/semiconductor/usage/windpower.html
2.
世界初、SiCを適用したMMC型HVDC変換器セルの技術検証を実施、NEDOニュースリリース、2018年2月
http://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_100919.html
3.
Renewable Energy Solutions、Fairchild Semiconductor
Renewable-Energy-Solutions.pdf
4.
水力発電は安定供給に優れた再生可能エネルギー 2018年1月30日
http://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/suiryokuhatuden.html
5.
「系統連系用NTNマイクロ水車」の販売開始 NTNニュースリリース、2018年6月25日
https://www.ntn.co.jp/japan/news/new_products/news201800060.html

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

http://newsandchips.com/

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