No.019 特集:医療ビッグデータが変える医学の常識

No.019

特集:医療ビッグデータが変える医学の常識

Expert Interviewエキスパートインタビュー

ムーアの法則を超えるペースで進化する解析技術

── 遺伝子解析関連技術の進歩を実感する場面はありますか。

解析に要するコストが低減していくペースの速さは目を見張るものがあります。ほんの10年前には、解析原価は何十億円も掛かっていました。ヒトゲノムが解析された2003年当時はさらに高額で、約100億円も掛かっていたのです。これが3年前には数百万、今は10万円を下回っています。

── あきれるほどのペースですね。半導体チップの集積度向上には、18~24か月ごとに2倍のペースで指数関数的に高まる「ムーアの法則」という技術トレンドがあります。それをはるかに上回るペースです。

この業界でよく使われるアメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health:NIH)が出している公式のグラフで、ムーアの法則と比較して、技術の進歩の速さが示されています(図1)。急激にコストが下がったことで、ゲノムに関するデータがどんどん蓄積されるようになりました。そして、莫大なデータを入手できるようになったことで応用が広がり、今は蓄積したデータを活用して何をするかが問われるフェーズに入っています。

[図1] ゲノム解析のコストの変遷
出典:NIH National Human Genome Research Institute
ゲノム解析のコストの変遷

データを解析するための技術も急激に進歩しています。ジーンクエストでも、アメリカの国際学会で人工知能(AI)を使った解析結果について発表しました。これまでは、アセトアルデヒドの代謝酵素を作り出す遺伝子がお酒を飲める強さを決めているといった、遺伝子とその機能が一対一の関係で対応していることに着目して研究が行われていました。しかし、そうした一対一の関係では説明できない形質もあり、様々な遺伝子が影響し合って機能していることがあります。たとえば、身長を決める遺伝子がどうやらこうしたタイプのようで、こうした複雑な解析にAIも使われ始めています。

── 文字通り日進月歩の世界ですね。

データの蓄積が価値を生み出しますから、データを集めながら、かつそのデータをフィードバックすることで実感できる価値を生み出していきたいですね。日本人が持っている財産を生かし、地道なステップを踏みながら研究し、価値化することで、それを世界が抱える問題の解決に使っていきたいと思っています。これは、日本という遺伝子の分野で恵まれた状況にある私たちの責務と考え、使命感を持って取り組んでいます。

「生命科学×IT」の統合プラットフォーム『ユーグレナ・マイヘルス』を通じ
健康リスク体質の遺伝的傾向、祖先のルーツなどの300項目以上を解析できる遺伝子解析サービス。
https://myhealth.euglena.jp/
ゲノム解析のコストの変遷
Microscope MuseumMicroscope Museum

高橋 祥子氏

Profile

高橋 祥子(たかはし しょうこ)

株式会社ジーンクエスト 代表取締役、株式会社ユーグレナ 執行役員バイオインフォマテクス事業担当、

1988 年生まれ。京都大学農学部卒業。 2013 年、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程在籍中に 株式会社ジーンクエストを起業。 2015 年に博士課程修了、農学博士号を取得。 個人向けに疾患リスクや体質などに関する遺伝子情報を伝えるゲノム解析サービスを行う。
2018年 株式会社ユーグレナ 執行役員バイオインフォマテクス事業担当 就任。

受賞歴に経済産業省「第二回日本ベンチャー大賞」経済産業大臣賞(女性起業家賞)、 第10回「日本バイオベンチャー大賞」日本ベンチャー学会賞、世界経済フォーラム「ヤング・グローバル・リーダーズ2018」選出など。 著書『ゲノム解析は「私」の世界をどう変えるのか?』

Writer

伊藤 元昭(いとう もとあき)

株式会社エンライト 代表

富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。

2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

URL: http://www.enlight-inc.co.jp/

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