No.019 特集:医療ビッグデータが変える医学の常識

No.019

特集:医療ビッグデータが変える医学の常識

連載02

みんなが夢中になるゲーム。遊ぶだけじゃもったいない。

Series Report

そろばんずくで楽しさを演出するゲーミフィケーション

電子機器のユーザーインタフェースやウエブサービスなどの仕組みに、ゲームの効果を盛り込むための体系化された設計指針がある。「ゲーミフィケーション*1」と呼ばれる手法がそれだ。

ゲーミフィケーションとは、ゲームの楽しさを演出する要素を遊び以外の分野に応用して、人の心に深く訴えかける情報伝達を行う手法である。「嫌なこと」「退屈なこと」「面倒なこと」「気乗りしないこと」を「楽しいこと」に変えることを狙いとしている。その応用の切り口は、ユーザーの愛着を呼ぶ機器やサービスの設計、メンバーの気持ちを一つにする組織運営、競争心や自尊心を刺激することによる作業効率の向上など、多岐にわたる。

ゲーミフィケーションは、取り立てて新しい手法というわけではない。その方法論は、腕利きの営業マンや教師、サービス企画の担当者などが、人とのコミュニケーションを効果的にするためのノウハウとして、無意識に取り入れていたことばかりだ。ただし、この熟練者だけが操ることができた秘伝の技を、誰でも応用できる技術体系として整理した点に意義がある。

ゲーミフィケーションで心地よいユーザー体験を作り込む

ゲーミフィケーションは2010年代前半に、マーケティング業界で流行した手法である。消費者の気持ちを動かして、製品の宣伝やブランド力の向上を目指すこの業界の人たちは、人の気持ち操ることにことさら関心があったのだ。しかし、その活用は一時のブームに終わり、その後は沈静化していった。ところが今、この手法が再度注目されてきている。そして、注目している業界も、マーケティング業界だけではない。その背景には2つの理由がある。

理由の1つは、機器やサービスの価値を決める要因として、ユーザー体験(User Experience:UX)の心地よさが重視されるようになったことだ。例えば、スマートフォンやパソコンを購入する消費者は、機能や性能だけで製品の価値を判断しているわけではない。製品選びの過程、購入時の販売店とのやり取り、家に持ち帰ってからの開封、セッティング、アプリケーションやサービスの利用といった、一連の流れを通じて総合的に価値を判断している。

だからこそ、それらのプロセスを体験する中で、心地よさや感動、愛着を感じさせる仕掛けが、メーカーに求められるのである。これをそろばんずくで作り込むのが、ユーザー体験の設計と呼ばれる作業だ。よりよいユーザー体験を提供するには、各プロセスの役割をきっちり定義し、どのような仕掛けをどこに配置するかといったことを綿密に練る必要がある。ここに、ゲーミフィケーションの知見が生きてくる。

もう1つの理由は、スマートフォンやSNSなど、ゲーミフィケーションの効果を高める新たな技術が発達してきたこと。1人ひとりに個別の情報を届け、気軽にフィードバックを返してもらい、人と人を密につなぐことが容易になった。このため、日常のいろいろな場面にゲームの仕組みを展開し、効果的にユーザー体験をデザインすることができるようになったのである。

これからAIやIoTを活用できるようになれば、ゲーミフィケーションの効果は、さらに高まるだろう。IoTを使えば、様々な場所から、何かを買おうとしている消費者や機器のユーザー、組織メンバーの行動をつぶさに追うことができるようになる。そして、集めた情報はAIを使って解析すれば、それぞれの性質や嗜好、価値観、置かれている状況などを知ることも可能だ。こうした情報を基に、対象となる人それぞれの、ツボを押さえた、個性に合った、ゲームの提供が可能になる。

[ 脚注 ]

*1
ゲーミフィケーション: この言葉は、2011年にアメリカの調査会社であるガートナーが、毎年公表するその年のトレンド「テクノロジー・ハイプサイクル」の中で紹介して、広く知られるようになった。
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