No.019 特集:医療ビッグデータが変える医学の常識

No.019

特集:医療ビッグデータが変える医学の常識

連載02

みんなが夢中になるゲーム。遊ぶだけじゃもったいない。

Series Report

「無印良品」を展開する良品計画は、2013年5月から、スマホアプリを用いたポイントサービス「MUJI passport」を提供している(図5)。多くのポイントサービスと同様に、買い物の際に提示すれば「MUJIマイル」と呼ばれるポイントがもらえる。そして、一定マイル数に応じて買い物で使える「MUJIショッピングポイント」と交換できるのだ。さらに、来店してチェックインする、購入した商品に関してコメントを投稿する、商品の改善提案をする、といったことでもポイントを獲得できる。

[図5] 良品計画の「MUJI Passport」
出典:良品計画のニュースリリース
良品計画の「MUJI Passport」

もともと同社の商品は、顧客の要望を基に企画されたものが多い。ポイントの付与を通じて、消費者が、店に置かれる商品の企画や改善に参加している当事者意識を醸成している点が巧妙である。また、消費者の属性、購買行動、レビューの内容などがきっちりと紐づけられるため、商品企画などに用いるデータの精度が高まる。MUJI passportは、中国、台湾、韓国、香港、インドでも提供が始まっており、アプリは国内で1200万ダウンロード、海外でも600万ダウンロードされているという。

教育分野での実践例

教育分野でもゲーミフィケーションの応用が進んでいる。特に、「複雑な概念の理解を促しやすい」「振り返り学習を促しやすい」といった効果が期待できるという。また、関心がなかった分野の知識やスキルが、ゲームを介して気づかぬうちに身に付くといった効果も期待できる。歴史シミュレーションゲームをプレイしたことで、特定の時代の詳細な知識を得たという人も多い。また、それをきっかけにして、歴史学習自体に興味を広げる人もいる。

また、近年、企業の人材教育の手段として、ネットコンテンツを使ったEラーニングの活用が増えている。Eラーニングは、学習状況の把握と習熟度合に応じたフィードバックが容易である。このため、ゲーミフィケーションとの相性がよいのだ。ここでは、教育への代表的な応用事例を2つ紹介したい。

アメリカのホテルチェーンHilton Garden Inn社では、ホテル内の仕事を疑似体験できるシミレーションゲームを、新入社員教育の一環として全世界の系列ホテルで採用している。これにより、接客、清掃、修理、給仕などの日常業務が学習できるという。ホテル内で起こりうる様々な顧客からの依頼、問い合わせに、いかに対応するかを評価し、顧客満足度が点数で表示される。客室の目立たない部分を清掃したり、宿泊客が入室する前に部屋の温度を調整したりといった気配りができると、高得点が得られるようになっており、新入社員同士で点数を競い合いながら、ホテルマンとしての基本が自然と身に付く仕掛けになっている。

アメリカの教育系非営利団体であるKahn Academyは、2006年から無料で学習できる教育サイトを運営している(図6)。数学、科学、工学、コンピューターサイエンス、プログラミング、歴史、芸術、経済学など様々な内容を、YouTube上で公開されている3000本以上の講義動画を視聴することで学習できるのだ。Kahn Academyのサイトでは、「Knowledge Map(知識地図)」と呼ばれる学習システムが採用されている。これはカリキュラムをシステム化したもので、特定の学習内容を修了しないと、次の学習に進めないしくみだ。こうしたものは、呪文や魔法を簡単なものから順に取得して、最終的には強い敵と戦えるまでに成長するロールプレイングゲームの手法であり、ここにゲーミフィケーションでのストーリー作りの知見が生かされている。高度な内容を学習する場合には、その学習の基となる知識に穴があるとうまく理解することができない。カリキュラムを段階的に修了していくことで、確実に知識を増やしていけるようにしているのだ。

[図6] ゲームの手法で必要な知識を段階的に取得していくKahn Academy
講義画面(左)、Knowledge Map(右)
出典:Kahn Academyのホームページ
ゲームの手法で必要な知識を段階的に取得していくKahn Academy

連載第1回の今回は、ゲーミフィケーションの効果と手法を解説し、典型的な応用例をマーケティングと教育の分野から紹介してきた。第2回は、これまでゲーミフィケーションを取り入れることが困難だった、医療やヘルスケアの分野での課題解決に応用する試みを紹介する。

Writer

伊藤 元昭(いとう もとあき)

株式会社エンライト 代表

富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。

2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

URL: http://www.enlight-inc.co.jp/

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