No.019 特集:医療ビッグデータが変える医学の常識

No.019

特集:医療ビッグデータが変える医学の常識

連載02

みんなが夢中になるゲーム。遊ぶだけじゃもったいない。

Series Report

身の回りの物事を、ゲームに仕上げる方法

ここからは、ゲーミフィケーションにおいて、仕事の進め方の策定や、製品およびサービスのユーザー体験の設計に、どのようにゲームの手法を盛り込んでいくのか、簡単に解説していきたい(図3)。

[図3] ゲーミフィケーションを実践するときの視点
作成:伊藤元昭
ゲーミフィケーションを実践するときの視点

まず、ゲームの仕掛けを盛り込む目的と、それによって解決したい課題、さらにはゲームをプレイする対象を明確にする。これらが曖昧なままでは、効果的にゲームの手法を作りこむことができない。機器設計の場合であれば、「ユーザーがなぜその機器を利用するのか」を明確に理解しておく必要がある。ここでは、ユーザー目線で目的や解決すべき課題を定義することが重要になる。儲けやすさや作りやすさといった、作り手や運営者側の論理を盛り込むと効果的なゲーム化はできない。

次に、ゲームの進行状況がプレイヤーに分かるように、可視化できるようにしておく。達成すべき目標と現状に、どの程度のギャップがあるのかを、数値やグラフなどで客観的に示す。可視化するパラメーターは、プレイヤーが行動することで変動するものを設定。どのような行動をすればゴールに近づくのか、何をすると目標から遠のくのかを実感しやすくしておく。この時、達成に要するプレイヤーの行動量や頻度によって、難易度が異なる複数の目標を設定することも大切だ。こうすることで、プレイヤーは手近な目標に達した達成感を何度も感じながら、より難易度の高い目標に向かうモチベーションを高めることができる。

そして、プレイヤーが行う作業のプロセスには、ストーリー性を持たせることだ。先に示したように、購入する製品選びから、購入、開封、セッティング、活用までの一連の流れで、心地よいユーザー体験を作り込むような場合には、このストーリー性が重要になる。プレイヤーが体験すること全体を俯瞰しながら、どこでどのような困難に直面するのかを洞察したうえで、適切なタイミング、適切な方法で、助け舟が現れるようにしておく。ユーザーが体験するイベントに、一貫したストーリー性が感じられるようにすることで、満足感を徐々に高めていけるのだ。

プレイヤーが行動したことによるミッションの達成時には、即時にフィードバックするようにしておく。これは、プレイヤーのモチベーションを維持し、行動を継続的に行わせるための原動力になる。この時、目標の達成難易度に応じた、何らかの報酬が得られる仕掛けを用意しておく。報酬は金銭やモノである必要はない。多くのビデオゲームなどで見られるように、ゲーム内でしか通用しないアイテムや呪文、称号などでも、プレイヤーの行動意欲を高めることができる。単に可視化したパラメーターを見せるだけではなく、同じゲームに取り組む他のプレイヤーと比較させたり、同じチームの他のメンバーからの反応などを得られたりすると、より効果的になる。

ゲーミフィケーションの仕組みは、SNSとの連携を図ることで、より効果的に機能させることができるようになる。YouTubeで共有される動画コンテンツの中でも、ゲーム実況動画は人気コンテンツの1つだ。同じゲームをしている他のプレイヤーの実況を見て、ゲームを上手に進める方法を学んだり、競争心をあおられたりしている。同様の効果は、ゲーミフィケーションでも期待できる。

ゲーム感覚でのアプリ活用で製品への愛着を養う

ゲーミフィケーションの応用として、最も実践例が多いのは、やはりマーケティングなどの広告宣伝の分野である。製品やサービス、さらにはそれらを提供する企業の価値を、消費者の心の深い部分に訴求するために活用されている。特に、新しいお客さんを獲得する手段としてより、お得意様の育成に使われている場合が多い*2。近年では、スマートフォンやSNSをフル活用した、かなり巧妙なゲーミフィケーションを展開して成功している例も数多く出てきている。その中から典型的な事例を2つ紹介したい。

日本コカ・コーラは、ゲーミフィケーションを利用した「Coke ON」と呼ばれるサービスを、2016年4月から提供している。テレビコマーシャルなども流しているので、既に利用している人も多いのではないだろうか。このサービスは、専用のスマートフォン・アプリを利用して、「スマホ自販機」と接続した状態で飲料を購入することでスタンプを獲得。15スタンプが貯まると好きな飲料1本と交換できるドリンクチケットがもらえる、というポイントサービスを基本としたものだ。購入した飲料の種類に応じたカラフルなスタンプがもらえ、ドリンクチケットを使う時には、スマホ自販機に向かってスマホ上でスワイプすると、自動的に商品が出てくるという遊びの要素も入っている。

このサービスの巧妙な点は、単なるポイントサービスではなく、消費者が楽しめる様々な仕掛けが用意されていることだ。例えば、2018年4月からは、1週間の歩数目標や累計歩数目標に応じてスタンプがもらえるサービス「Coke ON ウォーク」の提供が始まった(図4)。

[図4] 日本コカ・コーラの「Coke ONウォーク」
サービスに対応するスマホ自販機(左)、スマホの画面(右)
出典:日本コカ・コーラのニュースリリース
日本コカ・コーラの「Coke ONウォーク」

たくさん歩けば健康にもよく、しかもスタンプももらえるのだから一挙両得。自分がどのくらい歩いて、スタンプを獲得できたのかは、アプリで簡単に分かる。ただし動けば当然のどが渇く。飲み物を買うのなら、おそらくスマホ自販機を探して買うことになるだろう。しかも、消費者の属性とその購買データを活用して、新商品開発や自販機の設置戦略、マーケティング戦略などにも利用できる。既に、Coke ONアプリのダウンロード数は1000万件を超え、対応するスマホ自販機も日本全国に26万台設置されているという。

[ 脚注 ]

*2
ショッピングモールや家電量販店などが提供するポイントサービスも、ゲーミフィケーションの応用の一種だと言える。
TELESCOPE Magazineから最新情報をお届けします。TwitterTWITTERFacebookFACEBOOK