No.019 特集:医療ビッグデータが変える医学の常識

No.019

特集:医療ビッグデータが変える医学の常識

連載02

みんなが夢中になるゲーム。遊ぶだけじゃもったいない。

Series Report

退屈なヘルスケアはゲームの格好の応用先

ヘルスケアや健康増進にゲームを活用しようとする試みには、有名な成功例がいくつか出てきている。ヘルスケアなどで効果を得るには、継続的な運動が何より重要なのだが、この継続的に行うという部分がとても難しい。運動というのは、つらく退屈なものが多いため、体型や健康に気を使い始めた当初は張り切って取り組んでも、そのうち飽きて面倒になってしまう。そこで、ゲーム応用の出番である。

最も有名な例は、任天堂の家庭用ゲーム機「Wii」のゲームとして2007年に登場した「Wii Fit」だろう(図3)。ゲームに付属する「バランスWiiボード」を用いて、バランス能力の強化や、筋トレ、ヨガなど様々な運動を楽しみながらできるものだった。ダイエットにも効果があり、体重やBMIなどを記録して体調管理もできた。そして、世界で3500万台以上を販売し、世界で最も多く売れた体重計としてギネスブックにも載っている。

[図3] ゲームの手法をヘルスケアに生かして成功した例は多い。
出典:任天堂とNIKEのニュースリリース
ゲームの手法をヘルスケアに生かして成功した例は多い。

健康器具や健康食品というのは、一過性のブームが、次々と生まれては消えていく分野である。ブームを起こしたWii Fitに関しても、その後、任天堂が戦略変更したこともあって、今は後続商品が出てこない状態になっている。ただし、これはゲームをヘルスケアや健康増進に生かす、意義や効果がないことを示しているわけではない。ヘルスケアや健康増進にゲームを活用し、継続的に活用してもらうためには、ゲームそのものの魅力を維持し続けなければいけないという教訓だととらえるべきだろう。実際、定期的に新しいポケモンや新機能を投入し続けているポケモンGOは、2016年7月のリリース直後に起きた大ブームが沈静化した後も、現在に至るまで一定数のプレイヤーを維持し続けている。つまり、健康増進アプリとしての役割は色あせていないのだ。

また、ゲーミフィケーションをヘルスケアに応用した例として、NIKE社の「Nike+」も有名である。ユーザーは「Nike+」にメンバー登録し、運動時間やカロリー削減の目標などを設定することで、日々の成果を世界中のメンバーと比較しながら確認し、結果を知り合いとシェアすることができる。走った距離や消費カロリーは、スマートフォンのGPS機能を使い専用アプリでリアルタイム計測する。さらに、バーチャルな専属トレーナーとしてトレーニング指導もしてくれる。これは、目標を明確にする、結果を見える化する、SNSを使って他のプレイヤーと競うといった、モチベーションと競争心を高めるためのゲーミフィケーションの手法を取り込んだサービスであり、継続的に活用している人は多い。こうした個人に向けたヘルスケアの支援は、スマートフォンやウェアラブル機器のように、消費者が肌身離さず持ち歩く電子機器が普及したことで、極めて行いやすくなったと言える。

ガッツリこびりついた生活習慣を改善

糖尿病や高血圧、肺がんなど、その発生に生活習慣が大きく影響している疾病は多い。誰もが、生活習慣を改善すれば、こうした疾病にかかる可能性が減ることは知っている。しかし、食生活、睡眠、喫煙、日常的な運動といった生活習慣を改善することは、それほど簡単なことではない。こびりついた悪い習慣を断ち切るには、継続的に正しい生活習慣を実践し続ける必要がある。そのためには、モチベーションを維持する仕掛けが必要になり、ここにゲームを活用しようとする試みが数多く行われているのだ。

例えば、ゲーム感覚で禁煙に取り組むためのスマートフォン・アプリが登場している。禁煙支援アプリ「禁煙勇者」は、禁煙している時間や吸うのを我慢できた本数を見える化するだけでなく、禁煙時間によって伸びた寿命を算出して表示する。減ったタバコの本数よりも、延びた寿命の方がはるかにインパクトは大きい。さらに、禁煙の継続時間に応じてランク付けをしてモチベーションを高めたり、禁煙が辛くなったときのためのストレス発散用のゲームを提供したり、Twitterで禁煙の状況をシェアしたりといった機能も備えている。

また、アルゼンチンの企業であるWunderman社は、好き嫌いがある子どもに、ゲーミフィケーションを応用して食事を残さず食べさせるトレー「Yumit」を開発し、販売している(図4)。Yumitでは、食事をきっちりと食べると、スマートフォン・ゲーム中で利用できるアップグレードや新アイテムに交換できるポイントがもらえる。どこの国でも子どもがゲームに夢中になるのは同じで、その吸引力を生かしたご褒美を用意して食習慣を改善しようとする狙いだ。また、食事中も、子どもが食べ進むたびに、お皿を置いたトレーのLEDライトの色が変わることで気持ちを盛り上げていく。さらに、どのくらい食べているのか、親のスマートフォンでモニタリングすることも可能であり、食事の履歴も記録される。

[図4] 子どもに食事を残さず食べる生活習慣を身に付けさせるためのトレー「Yumit」
出典:Yumitのホームページで公開している映像
子どもに食事を残さず食べる生活習慣を身に付けさせるためのトレー「Yumit」
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