No.019 特集:医療ビッグデータが変える医学の常識

No.019

特集:医療ビッグデータが変える医学の常識

連載02

みんなが夢中になるゲーム。遊ぶだけじゃもったいない。

Series Report

大舞台の中をAIで自律したキャラクターが生き生きと動く

最新のRPGでは、現実世界のように極めて多様な要素を絡め合わせて冒険の舞台を作り出している。ここからは、最新のRPGを例に取って、そこにどのような情報処理技術、とりわけAIが使われているのか紹介したい。

RPGの多くは、冒険の舞台や登場人物、ストーリー構成などの規模が年々大きくなり続けている。たとえば、冒険の舞台を見ても、オープンワールドと呼ばれるプレイヤーが自由に動き回ることができる空間は、何十km四方相当という広大なものも現れている。かつては、プレイヤーが冒険するマップの決められた場所に特定のキャラクター(仲間や敵など)が登場し、その振る舞いや会話、そこで起きるイベントも決まっていた。いわば、遊園地にアトラクションが点在しているような作り方をしていたと言える。

ところが現在は、作品の規模が大きくなりすぎたため、制作者があらゆるケースを想定し、冒険の舞台で起こり得ることすべてを設定できなくなってきた。そこで、仮想冒険の世界を、プレイヤーに違和感を与えず、しかも制作者の意図を盛り込みながら作り上げる技術が求められるようになったのだ。その解決策として注目されたのがAIである。ゲームにAIを活用しようとする流れは、2000年以降急加速していったようだ。制作者がすべてを指定するのではなく、ゲーム内に登場する個々のキャラクターに、周りの環境や状況を自ら感じ、判断し、動く能力を与えるようになった。さらに、キャラクターごとに役割や個性を与え、ゲームの舞台や設定、大きなストーリーに合った行動をさせる技術も投入されている。

役割と特徴が異なる3種類のAIを併用して物語を紡ぐ

2016年に発売されたスクエア・エニックスの『ファイナルファンタジーXV』には、役割と特徴の異なる3種類のAIが投入されている(図2)。「キャラクターAI」「メタAI」「ナビゲーションAI」である。これら3種類のAIを連携させることで、作品全体のストーリーを紡ぎ、プレイヤーにワクワク、ドキドキさせる体験を生み出している。現在のRPGは、これらAIの出来が、プレイヤーの体験の質、ひいては作品の出来を決めるほど重要な要素になってきた。1つのAIですべてをカバーするのではなく、特徴の異なる複数のAIを協調させながら使うゲームのAI活用法は、多くの応用に適用できるのではないだろうか。『ファイナルファンタジーXV』に投入されたAI技術を基に、AI技術の行方をもう少し深く探ってみたい。

[図2] 先進的RPGに投入されている3種類のAIの役割分担
作成:伊藤元昭(参考:人工知能学会誌、2017年3月号、三宅陽一郎ほか、『大規模ゲームにおける人工知能 -ファイナルファンタジーXVの実例をもとに』)
先進的RPGに投入されている3種類のAIの役割分担

キャラクターAIとは、冒険の舞台に登場するモンスターや仲間の頭脳となるAIのことである。目の前にあるものや周囲環境などを仮想的なセンサーで認識しながら、自律的に判断と行動をさせる。ただし、自律的とは言っても、完全に任せっきりにするわけにはいかない。それぞれのキャラクターごとの役割や個性をつけないと、エンターテインメントとして成立しないからだ。そのため、キャラクターごとに特徴的な攻撃をしたり、特定の場所やアイテムを守ったりといった役割を設定する。さらに敵が近づいて来たら、勇敢に戦うキャラクター、仲間を守るキャラクター、一目散に逃げるキャラクターといった個性も指定しておく。

仲間同士でどのように協調していくかを決めるのも、キャラクターAIの役割である。キャラクター同士の関係性を加味しながら、チームとして動かす(図3)。チームで動く場合には、チーム自体に1つの人格が与えられ、チームAIが全体の動きを制御している。こうしたAI同士の関係性を定義する技術は、今後様々な分野で活用されることだろう。また、現時点で投入されている例があるかどうか不明だが、スマートスピーカーなどで進化しているAIのデジタルアシスタントの技術を使い、キャラクターと自然な会話ができるようになる可能性もあるようだ。

[図3] キャラクター同士が協力しながら行動する。
出典:スクエア・エニックスのプレスリリース
キャラクター同士が協力しながら行動する。キャラクター同士が協力しながら行動する。
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