No.019 特集:医療ビッグデータが変える医学の常識

No.019

特集:医療ビッグデータが変える医学の常識

連載02

みんなが夢中になるゲーム。遊ぶだけじゃもったいない。

Series Report

キャラクターを動かすAIを統制する映画監督のようなAI

メタAIは、ゲーム全体を俯瞰してストーリーを進行させたり、プレイヤーに感動を与えたりする映画監督のような役割を果たす(図4)。このメタAIこそが、自律的に判断するようになったAIキャラクターを用いながら、制作者の意図に沿ったストーリーを展開できるようになった要因である。AIを統制するためにAIを使うという点は興味深い。制作者の意図を反映させるためにメタAIを投入する動きは、2010年以降定着してきているようだ。

[図4] 制作者の意図を反映させたストーリー展開や演出をするため、メタAIが映画監督のような役割を演じる
出典:Adobe Stock
制作者の意図を反映させたストーリー展開や演出をするため、メタAIが映画監督のような役割を演じる

キャラクターAIは、基本的に自立しているため、放置しておくとそれぞれが勝手な判断で動いてしまう。例えて言うなら、ボールに全員が群がって、1人ひとりが勝手にボールを蹴りたがる子供のサッカーのような状態になってしまうのだ。そんな状態が何度も続けば、プレイヤーが面白いと感じるストーリー展開や演出はできず、プレイヤーは飽きてしまう。このため、プレイヤーが操るキャラクターがピンチになったら、頃合いを見計らって仲間を助けに行かせるといった、ゲームの世界観に沿った指示を出すメタAIが必要になる。

メタAIの技術は急激に進化しており、今ではプレイヤーの行動やスキルに応じて、指示を出すタイミングや内容を変えるまでに至っている。戦闘中の演出に意図的な変化をつけたり、あえて戦闘中の時間の流れを変えてみたり、プレイヤーがやって来た経路に応じて敵の配置を変化させたりという演出もする。つまり、予定調和的なストーリーを追うだけでなく、プレイヤー1人ひとりを忖度(そんたく)を推測する機能がついているのだ。そのため、遊ぶ人によって展開が変わってくる。

ナビゲーションAIは、地形に合わせて、キャラクターの動きを決める役割を担っている。基本的には、カーナビと同様の処理を行うものだ(図5)。目的地までの間にある障害物や高低差、地形などを認識して、移動経路を見つけ出し、リアルタイムの地形の変化にも動的に対応する。広大で複雑な地形を認識する処理は、メモリーやプロセッサーの負荷が大きい。そのため、ナビゲーションAIは常時起動しているわけではなく、必要に応じてキャラクターAIやメタAIが呼び出し活用できるようにしている。

[図5] 環境に応じた行動をさせる処理の負荷を軽減するため、ナビゲーションAIを別途用意
出典:Adobe Stock
環境に応じた行動をさせる処理の負荷を軽減するため、ナビゲーションAIを別途用意

負荷が大きい高度な処理を、無理やりキャラクターAIなどにさせるのではなく、役割の一部を別のAIとして切り出し、必要に応じて活用するというのは賢いやり方だ。ストーリーの進展による環境の変化などを加味しながらナビゲーションAIに判断させると、あたかもキャラクター自身が高度な判断をしたかのように見せることができる。例えば、プレイヤーが隠れている部屋に敵が侵入しようとしている場面を想定しよう。このとき、プレイヤーがドアの鍵を掛け忘れていれば敵は入口から、鍵を掛けてあれば部屋のガラスを突き破って突入するといった演出が可能である。あらかじめ条件に応じた行動を指定していないので、動きをより多様化できるようになった。このとき、敵のキャラクターAIやメタAIは、同じナビゲーションAIの情報を活用して判断を下す。

ゲーム応用技術で賢いAIを育て、自動運転車を安全に

こうした3つのAIの使い分けは、ゲーム以外にも用途がある。本来、キャラクターAIとナビゲーションAIは、自律的に動くロボットに向けて磨かれてきた技術だという。ゲーム向けAIには、リアルタイム性(即時性)、インタラクティブ性(双方向性)、質量ある物体を制御するという3つが求められる。これらは、自律ロボットのAIに求められることと共通している。

ただし、実際のロボットとは異なり、仮想空間でキャラクターを動かすゲームでは、周辺環境を把握する際に扱う情報にノイズがない、世界が閉じているため偶発的現象が起きないといった扱いやすさがある。そのため、ゲーム用のAI技術は急速に発達しており、そのノウハウはロボット開発のほか、自動運転車やドローンなどのAI技術にも活用されるようになってきた。

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