No.019 特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

No.020

特集:データ×テクノロジーの融合が生み出す未来

Cross Talkクロストーク

第2部

5G時代のARと、その先のAHがもたらすもの

第1部の3人のプレゼンテーションに続いて、第2部では3つのテーマに基づくクロストークが繰り広げられた。5G時代にARはどのように進化し何を実現するのか、さらにその先にあるAHは社会に何をもたらすのか。そしてそれら最先端技術を使って、未来を豊かにするテクノロジーやアイディアはどのように生み出せばよいのか。これらのテーマに関する3人のゲストによる話は、お互いの言葉にお互いが触発され合うような形で盛り上がった。

テーマ1

5G時代のARと、その先のAHがもたらすもの

── 第1部のプレゼンテーションでは、それぞれ実に興味深い未来像を語っていただきました。「5G時代に何が起こるのか」。まずはオーグメンテッド・ヒューマン(AH)の研究に取り組まれている暦本先生のご意見をお聞かせください。

暦本 ── 映画『マトリックス』*10で、ヘリコプターの操縦技術が瞬間的にダウンロードされるシーンで象徴的に描かれていたように、これからは体験そのものが伝送されるようになると考えています。ヘリコプターの操縦技術は従来、教科書を読んだり講習会に出たりして学ぶしかなかったわけですが、5G時代ではそのノウハウが一瞬で脳内に伝送される。その結果、ヘリコプターを操縦したことがない人でも思うように操縦できるようになるかもしれない。こんなAHっぽい現象が、実現する可能性もありそうです。

── そんなAHを支えるインフラである5Gについて、川島さんはどのようにお考えですか?

川島 ── 5Gは我々にとっても重要なインフラです。既に、ドイツテレコム(Deutsche Telekom AG)社やSKテレコム(SK Telecom)社、サムスン電子(Samsung Electronics Co., Ltd.)社と提携して研究を進めています。私たちはエンタテイメントの境界線を、屋内から屋外へどんどん広げたいと考えています。5Gについては、次の3つの点『ARクラウド』『ライブイベント』『レイテンシー』に注目しています。

── ARクラウドとは何ですか?

川島 ── ARクラウドとは、時間、空間、デバイスを超え、一貫したARエクスペリエンスをユーザーに提供するためのリアルタイム空間マップ情報です。これを使うことで、同じ空間において同じホログラムをユーザー同士で共有できます。言ってみれば複数ユーザーによる空間共有ですが、このARクラウドを実現するうえで5Gは大きな力になるでしょう。

[参考]リアルワールドマルチプレイヤーARデモ
提供:Niantic, Inc.

ライブイベントについても5Gは欠かせません。我々のイベントには多いときで100万人規模の参加者があり、行き交うデータ量は膨大です。そんなときでも、5Gがあればデータをリアルタイムで届けることができるでしょう。

5Gを語るうえで欠かせないもうひとつの要素が、先ほど森川先生がおっしゃっていたレイテンシーです。わずかな遅延がゲームのリアリティを損なうため、これをなくすうえでも5Gは大きな意味を持っています。ARを新たな次元の体験に持っていくインフラとして5Gには大いに期待しています

森川 ── 川島さんのお話ではBtoCの世界における5Gの役割が象徴的に示されていましたが、5Gの役割はBtoBの世界でも非常に重要だと思っています。とくに製造業の現場などですね。

暦本 ── 直接、BtoBに関わる話ではないかもしれませんが、たとえば今ここに我々3人が集まっていますよね。これって、各自がそれなりにスケジュール調整するなど努力して実現しているわけですよ。でも、これからはたとえ離れた場所にいてもリアルにトークできる可能性が出てくるでしょう

森川 ── 日本はどうしてもフェイス・トゥ・フェイスにこだわりがちですが、5Gをベースとした新しいテクノロジーが登場すれば、遠隔でのミーティングなども抵抗がなくなっていくのでしょうね

川島 ── フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションだと何が伝わり、ARとはどう違うのか。これらは暦本先生の研究領域なのかもしれませんが、ただ、こうして実際に対面で話していると、“伝わってくるものが全然違う”という感覚も確かにあるんですね。それが何なのかは、5Gが普及すれば明らかになるのではないでしょうか

── その意味では、映像は“8K*11になると人間の視覚を超える”という話がありますよね。であれば8Kを活用すると、フェイス・トゥ・フェイスよりも伝わるものが出てくるのということでしょうか?

暦本 ── 現場で自分の目で見ただけでは視認できないものを、8Kが見せてくれる可能性はあります。視覚については、現実の人間の能力をかなり超えていくでしょう。ただ、川島さんがおっしゃっていた“誰かと一緒にいる感覚や雰囲気”、触覚などを伝えるのは今のところまだ難しいですが。

森川 ── 触覚まで共有できて、離れた場所にいながら一体感を持てるようになるとすごいでしょうね。

暦本 ── 触覚のクォリティを上げるのは、かなり難しいです。今、我々は遠隔介護のトレーニングで“触覚伝達”を試しています。空気砲*12のような仕掛けを使って触覚を伝え、さらに映像と音声をミックスして総合的な感覚として伝えるような取り組みをしています。

川島 ── シリコンバレーにいると、働き方や働く場所が常に議論になるんですよね。リモートオフィス*14が各地にあれば、さまざまな才能を取り込めるからそのほうがよいと考える人がいます。その一方で、やはりひとつの場所に集まって集中してものづくりに取り組んだほうが生産性は上がるという考え方もある。ただ、同じ場所にいるとみんなの波長が合ってくる感じは確かにあります。それが空気砲ではないにしても、触覚までリアルタイムで共有できるようになると、違う次元に進める期待がわいてきますね。

[ 脚注 ]

*10
映画『マトリックス』: 1999年に制作された、仮想現実空間を舞台に人類とコンピュータの戦いを描いたキアヌ・リーブス主演のSFアクション。ワイヤーアクションや、バレットタイムと呼ばれる撮影法により革新的なアクションシーンを生み出し、世界的大ヒットを記録。監督はウォシャウスキー兄弟。
*11
8K: ハイビジョンや4Kを超える超高画質の映像規格。現行の地上デジタルテレビ放送(ハイビジョン)の4倍の解像度である4Kの約4倍、ハイビジョンの約16倍という圧倒的な高画質・高解像度を誇る。
*12
空気砲: 動きに合わせて空気を発することで、遠隔地にいる相手に触覚を伝えるデバイス。
*13
リモートオフィス: 移動時間を減らして労働生産性を高めるため、企業の本社から離れた場所に設置されたオフィス。自宅やカフェ、コワーキングスペースなども含む。
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