Cross Talkクロストーク
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テーマ2
進化したARで何ができるのか? 何を実現したいのか?
── 川島さんは、ARの可能性についてどのようにお考えでしょうか?
川島 ── 未来の話になると“SF的な発想”もあるかと思いますが、いちばん簡単なのはまず自分たちで何かをつくってみることだと思います。たとえば今なら、『ポケモンGO』をみんながどうやって遊んでいるのかについて注目してみてもいいでしょう。スマートフォンの小さなモニターに集中して、指先だけでスペースをつくっていますが、これってとても不自然じゃないですか? 5Gを使えるようになれば、インターフェイスも変わってくると思います。
もうひとつやってみたいのが、世界の見え方を変えることです。たとえば、Ingress*14では近くにあるお地蔵さんがスポットになったりします。そのお地蔵さんが歴史を語ってくれたらどうなるか。それを聞いた人には、どんな感情が沸き起こるのか。そんな情報がその場所に記録され、次にそこに来た人へと受け継がれていく。そうやって人がつながっていくとき、先ほど暦本先生がおっしゃっていたように、人間が超個体になる。そんな世界をつくっていきたいですね。
── ARの可能性、確かにいろいろ広がりそうですが、暦本先生はどのようにお考えでしょうか?
暦本 ── 要は、“何をつくりたいか”です。以前、透明度を自由に変えられる窓をつくったことがあります。一面がガラス張りの部屋なんだけど、ガラスの透明度を思い通りに変えて外から見られたくないところを隠す。普段の生活は、プライバシーと開放性がトレードオフの関係になっていますよね。つまり、カーテンを閉めたら外が見えない。だからと言ってカーテンを開けると外から覗かれてしまう。現実世界では、そんなものだと誰もが諦めています。
ところが、ガラスの透明度を部分的に細かく変えられると世界が変わります。テーブルの上の果物に太陽光が当たって傷んでしまいそうなら、そこだけ日差しを防げばいい。太陽の動きに応じて、影のエリアを変えればいいわけです。これがARであり、我々の日常の中でちょっとしたクォリティオブライフを高めてくれる。
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── ARとリアルの境目がなくなってくような感じですか?
暦本 ── “リアリティをプログラムする”と言えるかもしれません。先述の映画『マトリックス』では、人間がプログラミングされていましたよね。それなら家をダウンロードできたっていいではないかと。ちょっとめちゃくちゃな発想かもしれませんが、世界そのものをプログラミングして、自分の好きなように変えられるようになれば、などと考えています。
森川 ── そうなると、我々の隠れたニーズを探り出すことが必要ですね。先ほどの透明度が変わるガラスなどを映像として見せてもらうと“なるほど!”と納得するのですが。
暦本 ── 皆さん、雨が降っていれば皆さん傘をさすでしょう。でもこれって不自然だと思いませんか?
傘をさしていても濡れるし、重たいし。この手の理不尽な現象は、実は世の中に幾らでもあるのですが、『そんなもの』と思っているから理不尽さに気付かないのです。理不尽だとはっきり気付けば、技術を使って少しずつ改善していけるはずです。
川島 ── 『ポケモンGO』が受け入れられて思ったのが、人間ってやっぱり歩くのが好きなんだということ。みんなと一緒に歩くのは、それだけで楽しい。人間が本来持っている感覚を呼び覚ます感じです。
森川 ── お二人の話を伺っていると、IoTは共感をサポートするテクノロジーなのだと思いました。例えば、牛にセンサーを埋め込むと、発情や出産といったデータが分かります。畜産農家は、牛に共感できるのはすごく嬉しいと共に、これまでは牛につきっきりで観察しないとわからなかった状況が、遠隔でも把握できるようになります。IoTの発展により、人と動物の共感も深まりそうですよね。
[ 脚注 ]
- *14
- Ingress: 2012年にナイアンティック社が提供を開始したARモバイルゲーム。特徴はゲームフィールドが現実の世界であること。