No.022 特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた:我々はどこから来て、どこへ向かうのか

No.022

特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた。我々はどこから来て、どこへ向かうのか。

Visiting Laboratories研究室紹介

杉山 睦教授

透明な太陽電池がもつ大いなる可能性

TM ── 耐久性もすごいですが、透明な太陽電池もすごい技術ですよね。

杉山 ── 普通の太陽電池は、光を吸収して発電するために黒くなっています。それが透明ということは、光を吸収できないということです。ただ、それは人間の目で見える光の話であって、私たちの太陽電池は「紫外線」という、人間の目では見えない光を使って発電しています。だから人間の目には透明に見えるけれど、しっかり発電できるんです。

じつはこれも逆転の発想で、もともと車や窓ガラスなどに貼ってある紫外線(UV)カットのフィルムで発電できたら一石二鳥になるな、という考えから研究を始めたのです。そのあとで、大気がないため地球上よりも多くの紫外線が飛び交っている宇宙にもっていけば、大いに活用できるのでは、ということに気がつきました。

TM ── スペース・コロニーはもちろん、地上でもさまざまな応用ができそうですね。

杉山研究室に設置されている分子線エピタキシー(MBE)装置
宇宙用太陽電池で一番重要な光吸収をする部分の原料を、基板となるフィルムなどの表面に、薄い膜状に堆積させることができる。太陽電池の軽量化に欠かせない装置。
分子線エピタキシー(MBE)装置

杉山 ── 現在地上にあるものは、いわば「紫外線を無駄にしている」状態にあります。たとえばスマホの画面や眼鏡にも貼れますし、服の表面に貼り付けたり、繊維状にもできたりするので服の布に織り込むこともできます。また、太陽電池だけでなく、透明なコンピュータのようなものも実現できます。発電、計算、通信のすべてが透明にできるので、どのような物にも応用できると思います。

TM ── 今後の研究や、スペース・コロニーへの応用の展望について聞かせてください。

杉山 ── 透明な太陽電池や半導体が貢献できる分野として考えられるのは、たとえば福祉の分野です。お年寄りの方の健康状態をモニターするために、身体にたくさんのセンサーを取り付けると、そのこと事態が大きなストレスとなりますが、センサーはもちろん、そのデータを計算したり、病院に送信したりする装置が透明になれば、大きく軽減できると思います。また、ビニールハウスの外壁に使うなど、農業への応用も考えています。

そして、こうした応用の究極の形として考えているのが宇宙です。たとえば、宇宙で暮らすということは危険が伴いますから、安全のためにさまざまなセンサーを取り付けた服を着ることが求められます。しかし、センサーがついていることが目で見えると、ファッション性は失われますし、ストレスになり、またコストも高くなります。そこで透明で安価な半導体を使えば、普通の服を着ているのと変わらないようなものが作れるでしょう。

また、宇宙で暮らすにはとにかくエネルギーをどう確保するかが問題で、そのなかで太陽は貴重なエネルギー源です。私たちの太陽光発電では熱は捨てていますが、チーム内で、その熱を使った発電を研究しています。創・蓄エネルギー技術チームとして、太陽の光も熱も、すべて余さずエネルギー源として利用するということが、大きなテーマとなっています。

TM ── 先生の指導方針を教えてください。

杉山 ── いまは太陽電池の研究をしていますが、いずれ社会に出ると、必ずしも太陽電池の研究ができるとは限りません。私たちは研究者であると同時に教育者でもあるので、プレゼン力や伝え方、話し方や英語力など、どんな会社に入っても通用するような能力を磨いてあげたいと思っています。

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