No.022 特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた:我々はどこから来て、どこへ向かうのか

No.022

特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた。我々はどこから来て、どこへ向かうのか。

Visiting Laboratories研究室紹介

宇宙にも地上にも幸せで快適な生活をもたらす、“木村製作所”の大挑戦

2020.03.31

東京理科大学 理工学部 電気電子情報工学科 木村研究室

東京理科大学 理工学部 物理学科 幸村研究室

宇宙に第二の地球を造る「スペース・コロニー」構想。人類の宇宙進出を叶え、また人口爆発を解決する方法として、かねてより研究が続いているが、その実現のためには、まだ多くの課題が山積している。そんななか東京理科大学は、スペース・コロニーの実現のためにも、また地球上のさまざまな問題解決のためにも有用な技術の研究開発を、産学官の連携によるオープンイノベーションで実現するための場として、スペース・コロニー研究センターを立ち上げた。今回は、そのセンターの中から、地上向けとして研究されている民生技術を宇宙でも活用するための研究をしている「スペースQOL・システムデザインチーム」の木村真一教授と、幸村孝由教授に話を伺った。

(インタビュー・文/鳥嶋真也 写真/黒滝千里〈アマナ〉)

前編:東京理科大学 理工学部 電気電子情報工学科 教授 木村 真一

幸村 孝由教授

「宇宙で暮らす」とはどういうこと?

Telescope Magazine(以下TM) ── 木村先生はスペース・コロニー研究センターの副センター長を務めておられますが、はじめに同センターについて教えてください。

木村 ── 私たちは「スペース・コロニー研究センター」と名乗っていますが、スペース・コロニー、そのものを造ることを目的としているのではなく、人類が宇宙で暮らすことを実現するための、要素技術の研究を目的としています。

このセンターを向井千秋さん(同センター長、 元JAXA宇宙飛行士)と立ち上げたのが4年前のことでした。ちょうどそのころ、これから国際宇宙ステーション(ISS)をどう運用するのか、あるいはISSが退役したあとの有人宇宙活動はどうするのか、ということが議論になっており、そこから「宇宙に人が住む」ということを研究しようと考え、同センターを立ち上げました。

有人宇宙活動は今、大きな転換点にあります。たとえばアメリカは国際協力で、アポロ以来となる有人月着陸計画「アルテミス」を進めており、日本も協力することになっていますが、そこには民間企業が大きな役割を果たそうとしています。さらに並行して、スペースXやブルー・オリジンといったアメリカの企業は、独自に月や火星への移住をしようと考え、ロケットや宇宙船の開発も進めています。

これまで人類が宇宙に行くということは、“夢”の世界でした。しかし今、民間企業の参画などによって、自由度が広がり、とても早く物事が動き始めています。私たちはこうした動きについていかなければなりません。

ここで重要なのは、月や火星に住むためには、ロケットや宇宙船の研究をするだけでは十分ではないということです。宇宙という地上とはまったく異なる世界で、どう安全に、また快適に暮らすか、ということをしっかり考えなくてはらないのです。

TM ── 人類が宇宙で暮らすにはどのような課題があるのでしょうか。

木村 ── 大きく5つのポイントがあります。

1つ目は「重力が小さい」ということです。宇宙ステーションや月・火星に向かう宇宙船の中では微小重力(ほとんどゼロ)、月面では地球の6分の1の重力しかありません。こうした環境では、歩いて移動する、食事をする、トイレに行くなどといった、ちょっとしたことも含め、あらゆる行動で、地球とは大きく違う動作が必要になりますし、このような低重力の環境が骨格筋など体の状態にも影響を与えることが知られています。

2つ目は「孤立」です。宇宙船の中は長期間孤立した環境になるので、病気やメンタルの問題も含め、健康を維持する必要があります。たとえるなら、小さな部屋の中に3人の人間が入って、毎日さしてやることもなく、数か月間暮らすというものですから、よほどの精神力の持ち主でないと耐えられません。そのため、健康管理はもちろん、娯楽をどうするかなど、いかにこの環境の中で快適に、そして幸せに暮らすかということが重要になります。

3つ目は「水や空気をいかにクリーンに保つか」です。現在ISSは、水や空気の一部を再利用していますが、完全な再利用はできておらず、補給船を使い、地球から定期的に新しい水や空気を持ち込む必要があります。もし将来、月などで暮らそうとするなら、地球から持ち込むことも不可能ではありませんが、とても大きなコストがかかってしまいます。そのため、リサイクル率を上げ、水や空気などを完全に再利用できるようにする必要があります。

4つ目は「放射線」です。宇宙には地上よりもはるかに強い放射線が降り注いでおり、電気部品や人体に悪影響を与えます。

5つ目は「物資」の問題です。水や食べ物などを月へ持ち込もうとすると、時間もお金もかかりますから、ある程度自給自足する必要があります。

こうした問題を解決しない限り、いくらロケットや宇宙船があっても、宇宙で暮らすことはできないのです。

スペース・コロニー研究センターの目的とは?

木村 真一教授

TM ── こうした問題を、スペース・コロニー研究センターでは、どのように解決しようとされているのでしょうか。

木村 ── こうした問題を、“宇宙専用”の部品や技術開発で解決しようとすると、お金も労力も莫大なものになります。しかし、じつは宇宙で暮らすために必要な技術というのは、すでに地上で使われていたり、あるいは地上と宇宙の両方で活用できる可能性があったりと、ニーズが合致していることが多いのです。

たとえば、宇宙における健康管理の技術は、これからの高齢化社会にとっても役立つでしょう。また、限られた資源で植物を育てるという技術は、すでに植物工場で実現しており、その延長線上に宇宙における自給自足が存在します。水や空気の浄化やリサイクル率の向上は、宇宙だけでなく地球の環境保護や、近年話題になっているSDGs(持続可能な開発目標)の達成にも役立つ技術です。また、月の砂というのは非常に細かく、吸い込むと肺に影響を与えると言われていますが、この除去技術はPM2.5などの空気中の微小粒子への対策に役立ちます。

アポロ計画以来、従来の宇宙開発は「スピンアウト型開発」と呼ばれる、宇宙用に開発した最先端技術を、地上用に派生させて還元するという方法が主流でした。しかし、これには莫大な予算が必要になることから、今では「スピンイン型開発」と呼ばれる、地上で成熟した技術を、宇宙で活用するという方法が始まっています。宇宙で使う部品は、難しい技術が必要になるにもかかわらず、マーケットが小さいため、個数が出ない、すなわち量産効果が働かず、コストが高くなるという欠点があります。そこで、地上で大量に出回っている技術や部品を宇宙で活用することで、それを解決しようという考えです。

しかし、スピンイン型開発では、どうしても技術を後追いすることになってしまい、今すぐに宇宙で使いたい技術が手に入らないという問題もあります。そこで、最近トレンドとなっているのが、「宇宙・地上デュアル開発」という方法です。地上で開発が進んでいる技術に関して、宇宙で活用することも一緒に考えるとともに、宇宙用に必要な最先端技術の開発を用いて地上の技術を育てていく、というスタンスです。

こうした流れを背景に、スペース・コロニー研究センターでは、東京理科大学が持っている技術の中で、宇宙での暮らしにとって重要だと考えられる4つの分野を柱として、研究・開発を進めています。

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