Visiting Laboratories研究室紹介
夢の人工光合成「光触媒」技術で、宇宙でも地球でも持続可能な社会を実現
2020.02.28

宇宙に第二の地球を造る「スペース・コロニー」構想。人類の宇宙進出を叶え、また人口爆発を解決する方法として、かねてより研究が続いているが、その実現のためには、まだ多くの課題が山積している。そんななか東京理科大学は、スペース・コロニーの実現のためにも、また地球上のさまざまな問題解決のためにも有用な技術の研究開発を、産学官の連携によるオープンイノベーションで実現するための場として、スペース・コロニー研究センターを立ち上げた。今回はそのセンターの中から、創・蓄エネルギー技術チームの杉山睦教授と、水・空気再生技術チームの勝又健一准教授に話を伺った。
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第1部:
東京理科大学 理工学部
電気電子情報工学科
杉山研究室
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第2部:
東京理科大学 基礎工学部
材料工学科
安盛・勝又研究室
前編:東京理科大学 基礎工学部 材料工学科 准教授 勝又 健一

汚れも曇りも、バイ菌も防ぐ光触媒
Telescope Magazine(以下 TM) ── はじめに、光触媒という技術について教えてください。
勝又 ── 光触媒は、1967年に藤嶋昭先生が発見された技術です。藤嶋先生は2020年1月現在、東京理科大学の栄誉教授でもあり、また光触媒国際研究センターのセンター長でもあります。
藤嶋先生は、酸化チタンと白金とを導線でつないで、水の中に入れ、酸化チタンに光を当てると、白金から水素が出ることを発見しました。また、酸化チタンからも泡が出て、こちらは酸素であることがわかりました。つまり水を水素と酸素に分解していたのです。水を分解する方法としては電気分解がありますが、光触媒はただ光を当てるだけで分解できるのです。
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発見当時、世界はちょうどオイルショックの時代で、光を当てるだけで水素が取り出せるクリーンな新技術だ、人工光合成だ、と大きな話題になりました。しかし、光触媒を使って水を分解する効率が低かったため、エネルギーを取り出す方法としては一度廃れてしまいます。その後、藤嶋先生は発想の転換をし、「水を分解できるということは、強い酸化力があるということだ。それなら、その力を別のことに使えるのではないか」と考えました。
TM ── それはいったいどのようなものなのでしょうか。
勝又 ── ひとつが、「酸化分解」を使った汚れの除去です。酸化チタンの表面に汚れがついても、そこに太陽光などの光を当て続けるだけで、その汚れを、最終的に水と二酸化炭素に分解することができるのです。酸化分解の力はとても強く、たとえばゴキブリの表面に酸化チタンの粉をふりかけ、光を当て続けるだけで、跡形もなく分解することもできます。
もうひとつは「光誘起超親水性」という現象です。酸化チタンの表面に水をかけると、水が水滴の状態を維持できなくなり、濡れ拡がるということが起きます。これにより、酸化チタンに汚れが付いても、雨などが降ると汚れの下に水の膜が生まれ、汚れを自然に洗い流してくれるのです。
こうした現象を利用して、水や空気の浄化や、細菌・ウイルスなどの殺菌や抗菌、汚れにくい建材などに活用することで、エネルギー問題や環境問題を解決することにつながると考えています。
TM ── 光触媒国際研究センターについて教えてください。
勝又 ── 光触媒国際研究センターは、光触媒の技術を国内外の研究者と研究し、さらに深めるとともに、研究の情報発信を行ったり、応用・実用化について検討を進めたりと、光触媒研究のメッカにすることを目指しています。
光触媒には、まだいくつかの課題が残されています。たとえば、室内の蛍光灯のような弱い光でも十分に浄化できるようにしたり、細胞生物学・微生物学や光線力学療法を融合させた殺菌・治療技術を確立したり、そして藤嶋先生がかつてぶち当たった壁である、光触媒で実用的な量の水素を生成しエネルギー問題を解決したりなどです。こうした課題を、これまでの実績や産学官の協力などによって解決し、そしてさらに発展させることを目指しています。