No.022 特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた:我々はどこから来て、どこへ向かうのか

No.022

特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた。我々はどこから来て、どこへ向かうのか。

Visiting Laboratories研究室紹介

勝又 健一教授

光触媒で宇宙と地球のエネルギー・環境問題を解決

TM ── 光触媒の技術はどの程度まで実用化されているのでしょうか。

勝又 ── たとえば、フィルム状にして、どこにでも貼って防汚・防曇効果を発揮できるようにした製品や、高層ビルや住宅の外壁表面にコーティングして汚れないようにしたり、病院の手術室の壁に使って抗菌効果を高めたりしたものなどが、すでに発売されています。酸化分解で二酸化炭素が生じることを応用して、まず空気中の汚れを分解し、そのときに出る二酸化炭素を使って蚊をおびき寄せ捕獲する、という蚊取り機(図1)も発売されました。また、酸化チタンを畑の土の中に混ぜ込み、残留農薬を分解するということにも使われています。酸化チタンは人体をはじめ、生物に対して無害という特長がありますので、混ぜ込むことによる新たなリスクがありません。

さらに、歴史的な文化財など、手を加えにくい建築物に使うことで、建て直しや改築することなく、カビや汚れに強くすることができないかという検討も進めています。

ただ、光触媒の技術はまだまだ基礎科学の段階であり、市場は1000億円程度しかありません。今後さらなる研究や実用化が進めば、1兆円規模の市場になると考えています。

[図1]光触媒技術を使用した蚊捕獲機
©アース製薬

TM ── この技術をスペース・コロニーにどのように応用するのでしょうか。

勝又 ── 私が所属するスペース・コロニー研究センターの水・空気再生技術チームでは、資源が少ない、また調達しにくいスペース・コロニーのような閉鎖空間において自給自足したり、また衛生面の問題を解決したりするための要素技術の開発を行っています。

人間が生きていくためには水と空気が必要不可欠です。スペース・コロニーなどで人が暮らすためには、この水と空気をどう確保し、維持するのかという課題を解決しなければなりません。最初は地球から持ち込めばいいかもしれませんが、未来永劫地球からの調達に頼るというのは現実的ではありません。そのため、スペース・コロニーの中で水や空気を完全にリサイクルできるシステムを造る必要があります。そのための技術のひとつとして光触媒が貢献できると考えています。

もうひとつは抗菌です。じつはいま、国際宇宙ステーションの中では微生物が大量に繁殖していることがわかっています。宇宙飛行士は訓練して屈強な体になっていますから、免疫や耐性が強くなっていますが、一般の人が宇宙旅行する時代になると、こうした微生物によって病気になってしまうかもしれません。その微生物の抗菌、滅菌にも光触媒が貢献できないかと考えています。

こうした技術が実現できれば、スペース・コロニーはもちろん、地球のエネルギー問題や環境問題の解決にも貢献できると考えています。

TM ── 今後の研究の展望や目標について聞かせてください。

勝又 ── 私が注力したいと考えているのは水の浄化の研究です。「持続可能な開発目標(SDGs)」のゴールのひとつに「安全な水とトイレを世界中に」という項目があり、その解決に貢献したいと考えています。

これまでの研究で、鉄さびの一種であるオキシ水酸化鉄という物質に光を当てると、有機系の廃液を酸化分解しつつ、水素が取り出せるということがわかってきました。鉄さびは世の中にありふれているものなので、それを使って水の浄化ができるうえにエネルギーも取り出せるとなれば、非常に大きな可能性があります。ただ、まだ効率が悪いという課題があります。そのため、他に効率のいい、そしてありふれた物質がないかという模索も含め、まだ研究を続けている段階です。

もうひとつはカニの養殖です。本学の長万部キャンパスではカニの養殖の研究を行っているのですが、どうしてもすぐに死んでしまい、実用的な段階には至っていません。一説には、人工海水の中に、カニにとって有害な物質が含まれているからとされており、光触媒でこれを除去できないかと考えています。成功すれば、近大マグロのように、理科大ブランドのカニが売り出せるようになるかもしれません。

TM ── 先生の指導方針を教えてください。

勝又 ── 研究室に配属されるころには、学生はもう20歳を超えていますから、ひとりの大人として責任を持って、自主的に考えて研究や実験を行うように指導しています。そのため、いわゆるコアタイムのようなものを設けていません。これは私が学生だったころの経験を踏まえたもので、学生のうちは他にもやりたいことがたくさんありますから、実験や研究をしっかりやってくれれば、あとは自由にしてよいと考えています。

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