No.023 特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

No.023

特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

Visiting Laboratories研究室紹介

ロボットを軸足に、他分野とコラボ

野口 伸教授

TM ── 先生のロボット製作は、STEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)教育の典型で、センサやアナログ回路、デジタル回路、ソフトウエアプログラミングなど、広い知識が必要です。学生はとても大変だと思うのですが。

野口 ── その通りで、ロボットは総合工学だと思います。昔はメカトロニクスといいましたが、エレクトロニクスとメカニカルに加えてITも必要で、その上に農業の知識も必要となります。ただし、人間の脳には限界がありますので、NTTのように違う分野の企業や組織との協業を一所懸命にやろうとしています。一つの研究分野でこれらの分野を全てカバーできませんので、自分の研究室の得意なことに軸足を置いて、他の分野に詳しい相手と協業することで強くしようと考えています。

TM ── 先生の仕事は農家の方々との協業が必要となりますが、それはどのように行っていますか?

農家の方とのディスカッションでニーズを知る

野口 ── この研究室ではマシン作りは部屋の中で行いますが、総合的なタスクというか、仕事のエネルギーの3〜4割は外での作業につぎ込んでいます。つまり農家の方と一緒に仕事をしたり、あるいは官公庁の方や民間企業の方と一緒に仕事をしたりしています。国のプロジェクトは農家の方にお知らせし、農家の方のアイデアを教えてもらう、という双方向の会話が必要になります。こちらは、農家の方が困っている問題を解かなければなりません。農家の方のニーズを聞いて問題を把握する訳です。ですから研究室・キャンパスの中に閉じこもることは少ないのがこの研究室の特長です。

TM ── 農家の方と一緒に問題を解いていく訳ですから、農家の方と一緒に取り組まないとニーズがわからないと思います。

野口 ── その通りです。農家の人の話を聞くことによって学生の見聞が広がるのです。大学内だけで話をしていれば、限られた分野は詳しいかもしれませんが、エンジニアとしての資質は不十分です。エンジニアとしてユーザー(我々の場合は農家の方)の話を聞かなければニーズを汲み取れません。ユーザーとのディスカッションは若い人にとっては重要です。

新型コロナでリモートワーク中心に

TM ── 新型コロナウイルスの広がりによって、先生の研究室で変わったことはありますか?

野口 ── 当然ですが、感染防止のためにテレワークでリモート授業をやっています。3密を防ぐために学生との対面がなかなかできなくなっています。対面できないとなると実験室で何かを作ったり、議論したりすることができません。このため、研究の効率が大幅に落ちます。

また外の方たちと議論しながら研究を進めていたのですが、外の方々とも会えません。ウェブベースで会議を、このインタビューのようにやっていますが、全て伝わるわけではありませんので、これにも限界があります。研究自体が非効率になり、遅くなってしまいます。教育も研究も大きな影響を受けています。

反面、新型コロナで逆にウェブ会議の良さを改めて実感しました。私自身は以前、東京へ毎週1〜2回は出張で行っていました。しかし、今のように行けないとなると、その代替としてウェブ会議ですませますが、100%ではなくともある程度のディスカッションは十分できます。しかも移動時間がありません。意外と便利なツールであることに気づかされました。仕事の形が変わりましたね。確かに重要な話はフェイスツーフェイスで行う必要がありますが、全てのテーマをそのようにしなければならないわけではありません。

TM ── これから巣立っていく学生に向けて何かメッセージをいただけますか。

野口 ── この研究室では、社会課題を解決するために取り組んでいます。簡単な問題ではありません。それに果敢にチャレンジしていくことがこの研究室の精神です。これからは研究、学問だけではなく、精神的なものの考え方も身に付けていただいて、楽しい人生と共に、社会に役立つように活躍していただきたい、と思います。

野口 伸教授

北海道大学 農学研究院 ビークルロボティクス研究室

北海道大学 農学研究院 ビークルロボティクス研究室

野口 伸教授

Profile

野口伸(のぐち のぼる)

北海道大学 農学研究院 ビークルロボティクス研究室 教授

1961年北海道生まれ。1990年北海道大学大学院博士課程修了。農学博士。同年北海道大学農学部助手。1997年助教授、2004年より教授。現在、農学研究院副研究院長・教授、日本生物環境工学会理事長、日本農業工学会副会長。内閣府SIP「次世代農林水産業創造技術」(2016-2019)プログラムディレクター、「スマートバイオ産業・農業基盤技術」(2019-現在)プログラムディレクター代理。その他、中国農業大学の客員教授、伊ボローニャクラブ会員。専門は生物環境情報学、農業ロボット工学。スマート農業に関する研究に従事。池井戸潤氏の『下町ロケット ヤタガラス』の登場人物,野木博文教授のモデル。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニストとしても活躍。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。著書に「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)などがある。

http://newsandchips.com/

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