No.023 特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

No.023

特集:テクノロジーで創る、誰も置き去りにしない持続可能な社会

Visiting Laboratories研究室紹介

農業のIT/ロボット利用で食糧生産と環境保全を大きく改善する。

2020.8.21

北海道大学 農学研究院 ビークルロボティクス研究室

北海道大学 農学研究院 ビークルロボティクス研究室

農業に役立つ移動体ロボットを研究している野口教授の研究室。近年、なり手や後継者が少なくなり、高齢化が進む農業問題を解決する必要性は、ますます高まっている。そのソリューションが、少ない働き手で農業生産性を上げるビークルロボットであり、ICT技術だ。農業にICTを導入することで、農家の難題を一気に解決しようと、ビークルテクノロジーを開発している。幸いにも人工衛星は検出位置精度が上がり、画像認識技術も進歩した。農業のICT利用により、生産性の大幅向上を図る時代がやって来た。

(文/津田 建二 撮影/安孫子 寛人〈アマナ〉)

第 1 部:北海道大学 農学研究院 ビークルロボティクス研究室 教授野口 伸

野口 伸教授

農業に使えるビークルロボットを求めて

Telescope Magazine(以下TM) ── 農学部に所属されながらロボットの研究とは、どのようなことをされているのでしょうか。

野口 ── 私の研究室は、ビークルロボティクス研究室と呼んでいます。農学部でありながら工学部のような名前の研究室ですが、世界的にもこのような研究室はないと思います。ビークル(Vehicle)、すなわち移動体を利用しながら、日本および世界の食糧生産と環境保全に役立てることを目指しています。

TM ── どのようなビークルロボットを作られているのでしょうか。

野口 ── まず地上を走るグラウンドビークル、空を飛ぶエアリアルビークル、衛星であるサテライトビークル、海や湖のような水の表面を移動するサーフェスビークルなどを研究対象としています。これらのプラットフォームを利用して、環境を守りながら新しい食糧生産を技術開発していくことを学生と共に目指しています。例えば、典型的なビークルロボットとしては無人のトラクタや、無人のコンバイン、無人の田植え機などがあります。こういったビークルの無人化に加え、ビークルをスマートに(賢く)する研究もしています。

ビークルにマニュピレータを付けて野菜を収穫させたり、衛星やドローンを使いリモートセンシングによって農業に役立つ情報を得たりするのです。ロボット、ICTを農業生産に利用して環境保全を進めています。

無人で走行するグラウンドビークルのトラクター
無人で走行するグラウンドビークルのトラクター
空を飛ぶエアリアルビークル。ドローンを利用している。
空を飛ぶエアリアルビークル。ドローンを利用している。

リモートセンシングに衛星とドローンの併用

TM ── リモートセンシングで画像や映像を利用する例はありますか。

野口 ── 衛星画像では、私たちが見るR(赤)、G(緑)、B(青)の三原色の可視光に加え、近赤外線やミリ波など、人間には見えない波長も対象としています。これらの画像に地上の座標を重ねることで、例えば稲の生育状態などを知ることができます。

TM ── ドローンもリモートセンシングに使うのですか。どこかの企業と組むことはありますか。

野口 ── 今は梅雨の時期のため、雲がかかっていることが多く、衛星から稲の生育を見ることができません。このため低空を飛行するドローンを使って稲の生育を観察し、農家の方に役立ててもらっています。最近はドローンが安く普及していますので使えるようになりましたが、10年くらい前は高価で手が出せず、衛星画像を企業と共に解析していました。

TM ── 10年前から今まで、ビークルロボティクスのテクノロジーは、どのように進歩してきましたか。

野口 ── 衛星画像は10年間でとても進歩しています。可視光だけではなく、ハイパースペクトルと呼ぶ、人間には見えないさまざまな波長の光をとらえ、画像化できるシステムを搭載した衛星が上がっています。加えて、高解像度の画像を撮影できる衛星、また地上分解能の高い衛星もできました。昔は30m四方を一つのメッシュとすると、このメッシュが一つの画素に相当するという粗い画像でした。今は10cm四方を1画素とする高解像画像が撮れるようになりました。

7〜8年前まで、私たちは産業用ヘリコプターにセンサを付けて研究を行っていましたが、今ではすっかりドローンに取って変わりました。ドローンは低空センシングできるので高解像度の画像を撮影できますが、撮影対象との距離が近いため時間かかかります。一方、衛星画像は広域を捉えるのに向きます。そこで、衛星とドローンの二つを使えば、広域のカバーと低空の高解像度画像を同時に得ることができます。

TM ── そうしますと、広域画像と高解像度画像を重ね合わせる必要がありますね。

野口 ── そうです。精密に撮った画像を広域に展開するのです。衛星画像は太陽がどこにあるかによっても、大気中の水分の影響によっても画像情報が変化してしまいます。低空で撮影したドローン画像とうまく組み合わせることで、正確で高解像の画像を得ることができるようになります。そのための標準化や正規化の研究もしてきました。

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