No.024 特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

No.024

特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

連載01

“非密”のテクノロジーを活かせ

Series Report

百花繚乱、ウイルスの不活性化技術

ウイルスを不活性化させる技術には、これら以外にも様々な方式が提案されている。

三菱電機は、放電現象を利用した空気清浄技術「ヘルスエアー」をウイルスの不活性化に応用する検討をしている(図7)。放電電極と対向電極の間に直流電圧を印加し、空間に電界・放電空間を形成してウイルスや細菌を除去する。リボン形状の放電電極を採用することで、装置の吸い込み口全域でカーテン状の電界・放電空間を形成し、部屋の空気を取り込んでそこを通過させることで、ウイルスを抑制する。同社が25m3の密閉空間で試験した結果、風量40m3/h、416分で99%の浮遊ウイルスを除去することを確認している*7

[図7]三菱電機の空気清浄技術「ヘルスエアー」
使用時の模式図(左)とウイルスを不活性化する部分の模式図(中)、ウイルス抑制効果の試験結果(右)
出典:三菱電機
三菱電機の空気清浄技術「ヘルスエアー」 三菱電機の空気清浄技術「ヘルスエアー」

一方、パナソニックは、既に空気清浄機などに向けた技術として実用化している帯電微粒子水を応用し、新型コロナウイルスに対する抑制効果を確認できたと発表した*8。空気中の水に高電圧を加えることで生成されるナノサイズ(5~20nm)の微粒子イオンを発生させる独自技術「ナノイー」を、ウイルスの除去に利用したもの。帯電微粒子水の中には、高反応成分であるOHラジカルが含まれており、ウイルスや細菌、臭い物質、アレル物質などに作用してそれらを抑制する効果がある。新型コロナウイルスの抑制効果は、パナソニックと大阪府立大学の共同実験で確認された。45Lの試験空間で、床面から15cmの位置に帯電微粒子水発生装置を設置。ウイルス液を滴下したガーゼをシャーレに設置して、3時間にわたり帯電微粒子水を暴露し、ウイルス感染価を測定して抑制率を算出した。その結果、再現性を確認するために同じ試験を3回実施。その結果、99.7%~99.9%の抑制率が見られたという。

鉄道の洗車機の技術を応用した人体洗浄機も登場

あらゆる施設の入口で、消毒液を手にかけてから入場する風景が当たり前の日常になった。ただし、人によっては、消毒せずに入る人もいる。入場時の消毒を徹底したい場合には、人を配置して消毒を促すことになるが、人手に頼るこうした仕組みは決して徹底した三密対策とは言えない。そこで、施設入場時の消毒を自動化する装置が提案されている。

日本車輌洗滌機は、密閉空間に入る際に、洗車機のように自動で人を洗って衣服や靴の裏などに付着したウイルスや細菌を除去する自動消毒装置「ウォッシュ ミスト」を開発した(図8)。同社は鉄道向け洗車機などを扱っている企業であり、今回開発した装置はその技術を応用したものである。衣服を着たまま装置内を歩いて通過すると、自動的に次亜塩素酸水などのミスト状の消毒液を噴霧して衣服からウイルスを除去する。同時に装置内に敷かれた特殊マット上を歩くことで靴底からも取り除く。過剰な消毒液を浴びて衣類が不快にならないように噴霧量が最適化されており、衣類や靴の約95%以上の面積に薬剤を噴霧できるという。

[図8]鉄道車両の洗浄機を応用して日本車輌洗滌機が開発した自動消毒装置「ウォッシュ ミスト」
装置の外観(左)、消毒液のミストを噴霧している様子(右上)と靴底のウイルスを除去する様子(右下)
出典:日本車輌洗滌機
鉄道車両の洗浄機を応用して日本車輌洗滌機が開発した自動消毒装置「ウォッシュ ミスト 鉄道車両の洗浄機を応用して日本車輌洗滌機が開発した自動消毒装置「ウォッシュ ミスト
鉄道車両の洗浄機を応用して日本車輌洗滌機が開発した自動消毒装置「ウォッシュ ミスト

部屋の中の空気の流れを操り、密閉空間でも人同士の間での飛沫の飛散を防ぐ技術も提案されている。清水建設は半導体や医薬品の工場のクリーンルーム向け技術を応用し、業務用空調機器メーカーの新見工業と共同で「シミズ・ファインフィルターユニット」と呼ぶ、病原体が付着した微粒子や飛沫核を流下させるエアカーテン技術を開発した(図9)。医療現場で医師と患者の間に見えない空気の壁を作るような用途を想定している。

[図9]清水建設と新見工業が共同開発した医療用エアカーテン「シミズ・ファインフィルターユニット」
使用時の模式図(左)と患者からの飛沫を空気の壁で防いでいる様子(右)
出典:清水建設
清水建設と新見工業が共同開発した医療用エアカーテン「シミズ・ファインフィルターユニット」 清水建設と新見工業が共同開発した医療用エアカーテン「シミズ・ファインフィルターユニット」

医療機関の診察室などでは、医師と患者を隔離するための簡易ブースやフードマスク、医師の後方から患者に向けて除菌した空気を吹き付ける空調などが使われている。このうち、ブースやフードマスクは医師と患者に閉塞感を与え、空調は不快感を与えるとともに冷暖房用空調との気流の干渉などが生じる可能性があった。開発した装置には、吸込部に、ウイルス・細菌などが付着した微粒子や飛沫核を含む空気の吸込口と、それらを除去・無菌化するHEPAフィルター、室内空気を循環させるファンを組み込んでいる。一方、吹出部には、無菌の空気を室内に供給する2本の給気口を組み込んでいる。そして、医師の頭上に給気口を配置し、天井面から下向流を吹き付けることで、医師の周囲に効果的なエアカーテンを形成して、患者との間を分離する空気の流れを作り出す。

次回は、三密のうち“密集”状態を未然に防ぐ技術や密集する必要性をなくす技術の利用動向について解説する。

[ 脚注 ]

*7
ただし、実際の使用環境、および使用条件では同様の効能・効果が得られることは実証できていない。
*8
今回の確認は、密閉した試験空間で実施したものであり、実使用空間における確認ではないという。

Writer

伊藤 元昭(いとう もとあき)

株式会社エンライト 代表

富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。

2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

URL: http://www.enlight-inc.co.jp/

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