No.024 特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

No.024

特集:テクノロジーは、これからのハピネスをどう実現できるのか

連載01

“非密”のテクノロジーを活かせ

Series Report

ロボットカーを使った無人での物流の実用化が急加速

日本では外出の自粛、海外ではロックダウン(都市封鎖)によって、暮らしに欠かせない日々の買い物にも支障が出るようになった。外出を控えて、ネットショッピングや出前の利用が増えたという人も多いのではないか。こうした状況は世界中で起きている。例えば、アメリカ最大手の通販サイトであるAmazon.comでは、2020年3月、10万人を新規雇用すると発表した。また、アメリカ食料品宅配サービス大手のInstacartに至っては、同年3月から3か月で30万人を雇う計画を公表し、4月にはさらに25万人を追加雇用すると発表した。コロナ禍によって、通販やデリバリーの利用が急拡大している。

通販やデリバリーを利用すれば、消費者が外出することはない。しかし、結局、商品を運んでくるのは人であるため、見知らぬ人との接触を避けることはできない。このため国内外を問わず、無人のロボットカーやドローンを使って、商品や物資を輸送するための技術開発とサービス提供が、にわかに加速してきた。近年、自動車の自動運転への応用を想定して開発されてきたテクノロジーが、こうした消費者にモノを届けるロボットカーやドローンに転用されるようになってきている。AIを活用した走行環境を認識する技術や、安全な自律走行を実現するための技術などである。いくつか例を挙げたい。

アメリカのスタートアップであるStarship Technologies社は、カリフォルニア州マウンテンビュー市で、食事をデリバリーする配送ロボットの実証実験を行っている(図6)。スマートフォン上の専用アプリから注文・決済することで、市内の飲食店の料理やスーパーマーケットの商品などを自宅やオフィスに届けてくれるのだ。人が手渡しするわけではなく、利用者がアプリ上で確認ボタンをスワイプすることで、ロボットの蓋のカギが外れ、品物を取り出すことができるようになる。そして、商品を取り出して蓋を閉めると、次の配送先に向かっていくのだ。基本的に自動運転車と同様で、GPSにより自車の位置を把握し、様々なセンサーを使って周囲の状況を認識する。こうして人や障害物を避けながら、最高時速6kmという人が歩くようなスピードで歩道を走り、安全にモノを運ぶ。時速数十km以上で走る自動運転車に比べれば、ずっと安全であり、実用化のハードルは低い。

[図6]ロボットカーで食事を配送
出典:Starship Technologies社
ロボットカーで食事を配送

一方、アメリカNuro社は、2020年4月、新型コロナの感染者を収容・治療する医療施設に向けて、レベル4相当の自動運転車「R2」を使って医薬品や水、食料を運ぶデリバリーサービスを開始した。こちらは、車道を走る自動運転車であり、一度に運べる物資の量は格段に多い。コロナ禍によって、行政が自動運転車の活用を積極的に支援する機運が高まっており、公道での実証実験の認可が得やすくなる傾向があるようだ。

日本でも、ロボットカーで物資を運ぶ実証実験が盛んに行われている。日本郵便は、自動運転車関連のベンチャーZMPの無人宅配ロボット「デリロ」を使って、公道での配送実験を2020年10月末まで行った。デリロは、複数台のカメラやレーザーセンサーを使って周囲の通行人の位置を検出して安全に運行する。実証実験では、コンビニで受け取った荷物を郵便局まで運ぶ作業を行った。同様の実証実験は、宅配のヤマトホールディングスや佐川急便も行う予定だという。

ドローンを活用した迅速・安全な医薬品・輸血用血液の配送が世界で広がる

ドローンを使った物資の配送も、一気に実用化に向かって動き始めている。アメリカのZipline社は、アフリカのルワンダやガーナで、輸血用血液の集中貯蔵施設から地方の病院に向けて、ドローンを使って必要に応じてデリバリーする仕組みを導入して実績を上げた(図7)。そして、いよいよアメリカでも2020年5月からサービスを開始。医療従事者に向けて、往復で約20~30マイル(約32km~48km)の距離を飛行して防護用品や医薬品を配送する。

[図7]ドローンを使って輸血用血液を配送
出典:Zipline社
ドローンを使って輸血用血液を配送

また、Googleの関連会社であるアメリカのWing社は、オーストラリアのキャンベラ市とローガン市、アメリカのバージニア州、フィンランドのヘルシンキ市で、食料品や食事など、一般物資のドローン配送サービスを行っている。世界的な外出制限によって、サービスの需要が急増しているという。

図らずも人類が直面したコロナ禍という危機は、想定していた近未来の暮らしや社会活動をグッと近くに手繰り寄せた面がある。私たちの新たな生活様式の中で、新たなテクノロジーが貢献できる部分は多い。

Writer

伊藤 元昭(いとう もとあき)

株式会社エンライト 代表

富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。

2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

URL: http://www.enlight-inc.co.jp/

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