No.022 特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた:我々はどこから来て、どこへ向かうのか

No.022

特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた。我々はどこから来て、どこへ向かうのか。

Cross Talkクロストーク

本間希樹教授

永田 ── ちなみに、画像化されたブラックホールはすごく綺麗な赤い色ですよね。

本間 ── 実際には、電波で見ているので人間に見える色ではないんです。チームの中でどんな色がいいか相談して、一番かっこいいのはこんな感じだろうということで、この色をつけました。

永田 ── このデータがブラックホールだということは、いつごろわかったのですか?

本間 ── 望遠鏡で観測したのは2017年で、2018年6月に各国の研究チームにそのデータが同時に渡されて、解析が始まりました。そこからは早くて、私たちは30分ほどでブラックホールの影があるとわかりました。それまでに別の天体を使って何度も解析の練習をしていたので、いざ本番となったときに素早く対応できたんです。

永田 ── そのときのご感想は?

本間 ── それはもうガッツポーズでした。10年の苦労が報われたのですから。その夜はもちろん祝杯をあげました。

永田 ── さぞ美味しいお酒だったでしょう(笑)。

── そして2019年4月に、本間さん自ら、この成果を発表されたわけですが、どのような反応を予想されていましたか?

本間 ── じつは発表するまでヒヤヒヤでした。この画像がもつ意味がどれくらい伝わるかわからなかったんです。すでに映画などで、CGで作られたブラックホールの綺麗な映像があるのに、私たちのはいくら本物とはいえ、ぼやけた写真でしたから。どういう反応があるか心配でした。

本間希樹教授

永田 ── でも、多くの人が感動してくれましたよね。

本間 ── それが伝わったのは、メディアの方々のおかげでもあり、そして一般の方の興味や関心、知識の高さのおかげです。子どもさんもよくわかってくださいました。永田さんのように、プラネタリウムを通じて成果のもつ意味を広めてくれたおかげですね。

通信技術と半導体技術の役割

── こうしたブラックホールの観測や解析には、通信や半導体の技術も重要だったんですよね。

永田 ── 多くの電波望遠鏡を組みわせたデータというと、そのデータ量はかなりのものになりますよね。どうやってやり取りしたんですか?

本間 ── まさにデータ量は膨大なので、インターネットの回線ではとてもおいつきません。また、ネットがない場所に置かれた望遠鏡もありましたので、ハード・ディスク・ドライブ(HDD)ごと持ち出して、アメリカとドイツに集めて処理をしました。そして、その処理したデータを日本などに送って、そこでそれぞれ解析したのです。

永田 ── 将来、5Gなどで通信技術がさらに発展すれば、今より研究しやすくなりますか?

本間 ── そうですね。だいたい100 Gbpsくらいを専有して利用できれば、もっと効率的に解析できるようになり、研究が進むでしょう。

永田 ── それからスーパーコンピュータの役割も大きかったんですよね?

本間 ── この水沢キャンパスにある、天文学専用のスーパーコンピュータである「アテルイⅡ*3」を使って、すでにある理論を使い、ブラックホール・シャドウを撮影できたらこんな風に見えるはず、という画像をシミュレーションしました(図4、5)。

[図4]国立天文台天文シミュレーションプロジェクト(Center for Computational Astrophysics,CfCA)
天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」

©NAOJ(国立天文台)
アテルイⅡ

永田 ── その結果はどんなものだったのですか?

本間 ── 実際に撮像できたものとよく似ていました。そこで、理論が間違っていないこと、もっと言えば、そもそもブラックホールの存在を予言した、アルベルト・アインシュタインの一般相対性理論が正しいと確信できました。

永田 ── 本間先生の研究にとって、半導体はどれくらい重要なのですか?

[図5]アテルイⅡの計算ブレード
©NAOJ(国立天文台)
アテルイⅡの計算ブレード

本間 ── 私たちの研究と半導体の進化は密接に関わっています。小さく暗い天体を撮るときはたくさんのデータを取る必要がありますから、そのデータを処理するためには、処理速度の速い半導体が必要です。

たとえば電波を受信し、それをデジタル処理するときに使うサンプリングチップと呼ばれる部品が重要ですし、データを掛け合わせるときにはコンピュータのクラスタを使っていますが、そこではCPUの性能と数が大事になってきます。

私たちは、いま手に入る技術水準の範疇でしか動けないのですが、もし半導体技術が進歩すれば、バンド幅が広がり、より暗いものが見られるようになるでしょう。今後の技術革新に大いに期待しています。

[ 脚注 ]

*3
アテルイⅡ: 水沢VLBI観測所に設置され運用中の天文学専用のスーパーコンピュータ。さまざまな天体現象をコンピュータ内に仮想的に再現して計算することができ、「理論天文学の望遠鏡」の異名をもつ。2018年6月1日に共同利用を開始し、現在も運用されている。2013年に導入された従来機である「アテルイ」の6倍、2014年10月に行われたアップグレード後と比較しても3倍の演算能力にまで向上している。ちなみにアテルイ(阿弖流為)とは、今から1200年ほど前に岩手県の水沢付近に暮らしていた蝦夷(えみし)の長であり、朝廷の軍事遠征に対して蝦夷をまとめて勇猛果敢に戦った英雄の名前から取られている。
Cross Talk

本間教授に聞く!史上初、ブラックホール撮像成功までの道程

本間教授に聞く!
史上初、ブラックホール撮像成功までの道程

前編 後編

Series Report

連載01

系外惑星、もうひとつの地球を探して

地球外知的生命体は存在するのか?

第1回 第2回 第3回

連載02

ブラックホール研究の先にある、超光速航法とタイムマシンの夢

過去や未来へ旅しよう!タイムマシンは実現できるか?

第1回 第2回 第3回

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