No.022 特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた:我々はどこから来て、どこへ向かうのか

No.022

特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた。我々はどこから来て、どこへ向かうのか。

Cross Talkクロストーク

科学の魅力と、本間先生の知的好奇心の源

本間希樹教授と永田美絵氏

永田 ── 本間先生にはこれまでじつに多くのことを教えていただきました。そんな本間先生の、知的好奇心、探究心の源っていったい何なのでしょうか?

本間 ── やはり“好き"であることですね。それに尽きます。子どものころから、星空を見て、そこに広がる世界に何があるのか、つねに不思議に思い続けてきました。

そして、新しい謎が次々と生まれることが楽しいですね。これからも、科学の分野で謎が尽きることはないでしょう。私はそれを解き明かし続けていきたい。その想いがとどまることはありません。

たとえば、今回のブラックホール・シャドウの撮像でも、ブラックホールがこう見えるだろうということは、アインシュタインの一般相対性理論から予想できるので、まずスーパーコンピュータを使ってシミュレーションをしました。その結果と、実際に撮像できたブラックホールとはよく合っていました。それはそれで嬉しかったですし、理論が間違っていなかったことが確認できたのはよかったことでもあります。

しかし、その一方で、ちょっとがっかりもしたのです。理論とまったく同じだったということは、そこで「めでたしめでたし」で終わってしまうのです。多くの物理学者が期待していたのは、アインシュタインの一般相対性理論が間違っていると解釈できる、“予想外の結果"が出てくることでした。つまり、逆に予想外のことが出てきたほうが、次の新たな研究につながっていくので、嬉しいと思えるものなのです。

永田 ── そんな科学の謎や、それを追究することは、人類に何をもたらすのでしょうか?

本間 ── 携帯電話などに代表されるように、科学は世の中を豊かに、そして便利にしているのは事実です。でも、私たちのやっている天文学は、そう言うのが難しい分野です。もし「ブラックホールの研究が何の役に立つのですか?」と聞かれたら、「役に立ちません」と答えるしかない(笑)。

でも天文学は、みんなが普段意識していないことを意識させてくれる、そういう点で役立っていると思います。私たちは地球のことだけ知っていれば十分生きてはいけますが、地球の外がどうなっているのか、ブラックホールがどうなっているのか、銀河がどうなっているのか、といったことを解き明かすことは、人々の知的好奇心を刺激し、私たちが何者なのかという根源的な問いに答えることになるのだと思います。

永田 ── まさに「我々はどこから来て、どこへ向かうのか」ということを解き明かす、そして考えていく研究ですね。

本間 ── そうですね。じつは、「ブラックホールの研究が何の役に立つのですか?」と聞かれたとき、私は半分冗談、でも半分は本気で、「宇宙人に会ったときに恥をかかないため」と答えているんです(笑)。もしいつか宇宙人に会ったとき、ブラックホールについて何も知らなければ、宇宙人に「レベルが低いね」って笑われてしまうでしょう。

私たちの研究が、人類の知識を進歩させることに少しでも貢献できればいいな、と思いますし、むしろ人類が他の宇宙人に会いに行って、その人々が抱えている問題を解決し、救うくらいのことができればいいと思います。

[図5] 国立天文台天文シミュレーションプロジェクト(Center for Computational Astrophysics,CfCA) 天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」
©NAOJ(国立天文台)
天文学専用スーパーコンピュータ「アテルイⅡ」

夢を叶える鍵は「一途な想い」

── 最後に、科学を目指す若い方へのメッセージをお願いします

本間 ── 宇宙でもいいし、もちろん宇宙じゃなくても何でもいいので、何かに興味や好奇心を持ってほしいですね。そして興味を持ったことに対して、自分で行動を起こそう、それを徹底的に掘り下げて何かやってみよう、とすることが、何かを生み出す原動力となるはずです。まずは好きなものを見つけて、それを大切にしてほしいですね。

天文学者という仕事は、仕事の数やポジション(ポスト)の数も少ないのですが、その中で生き残っていくためには、絶対にそれを続けたいという想い、そういう「一途な想い」がとても大事でした。

永田 ── 私の場合もそうでした。「宇宙に関わる仕事をやりたい」と言い続けていたら、学校の先生が協力してくださったり、たまたまプラネタリウム解説員の空きが見つかったりと、縁がつながって道が拓けていきました。今では「何度生まれ変わっても解説員をやりたい、それが私のミッション」とさえ思っています。

本間 ── 若い方の皆さんにも、そんな一途に想いを貫けるようなものを抱いてほしいと思います。

── ありがとうございました。

1939年から1987年まで天文緯度の観測に使われた
浮遊天頂儀
1939年から1987年まで天文緯度の観測に使われた浮遊天頂儀
1899年に地球の緯度変化の国際共同観測を
北緯39°8'上の世界各地で行うことが決まり、水沢に緯度観測所が設立された。
1899年に地球の緯度変化の国際共同観測を北緯39°8'上の世界各地で行うことが決まり、水沢観測所が設立された。

Profile

本間希樹教授

本間希樹(ほんま まれき)

国立天文台 水沢VLBI観測所所長
国立天文台教授、総合研究大学院大学教授、東京大学大学院教授

アメリカ合衆国テキサス州生まれ、神奈川県育ち。平成6年東京大学理学部天文学科卒、平成11年同大学院博士課程修了。同年国立天文台COE研究員。
その後、助教、准教授を経て2015年より現職。専門は電波天文学で、超長基線電波干渉計(VLBI)を用いて銀河系構造やブラックホールの研究を主に行っている。著書に『巨大ブラックホールの謎』(講談社ブルーバックス)、『国立天文台教授が教える ブラックホールってすごいやつ』(扶桑社)など。2017年よりNHKラジオ『子ども科学電話相談』の回答者も務めている。

永田美絵氏

永田美絵(ながた みえ)

コスモプラネタリウム渋谷 チーフ解説員
NHKラジオ『夏休み子ども科学電話相談』天文担当。

東京新聞のコラム『星の物語』を連載中。主な著書に『星座の見つけ方と神話がわかる星空図鑑』(誠美堂出版)、『ときめく星空図鑑』(山と渓谷社)、『星と宇宙の不思議109』(偕成社)、『はじめよう星空観察』(NHK出版)、『宙ガールバイブル』(双葉社)などがある。そのほか「星座切手シリーズ」の星空解説文も担当。
美絵 (みえ、11528 Mie)での小惑星登録もある。
日々、宇宙や地球の素晴らしさを伝え続けている。

Writer

鳥嶋 真也(とりしま しんや)

宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。

国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。主な著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、論文誌などでも記事を執筆。

Webサイト http://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info

Cross Talk

本間教授に聞く!史上初、ブラックホール撮像成功までの道程

本間教授に聞く!
史上初、ブラックホール撮像成功までの道程

前編 後編

Series Report

連載01

系外惑星、もうひとつの地球を探して

地球外知的生命体は存在するのか?

第1回 第2回 第3回

連載02

ブラックホール研究の先にある、超光速航法とタイムマシンの夢

過去や未来へ旅しよう!タイムマシンは実現できるか?

第1回 第2回 第3回

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