No.022 特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた:我々はどこから来て、どこへ向かうのか

No.022

特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた。我々はどこから来て、どこへ向かうのか。

Expert Interviewエキスパートインタビュー

宇宙ビジネスという言葉がなくなっている未来を目指して

菊池 優太氏

── 宇宙と地上をセットに考えることで、ビジネス以外にも影響を与えることはあるのでしょうか。

現在、国連に加盟している193か国が2030年までに達成する目標として、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)*9を掲げています。Space Food Xの活動はSDGsの目標達成にも役立つ技術を生みだすことができると考えています。宇宙は地上よりも過酷な環境です。地上では「実現できればいいな」と思うようなことでも、宇宙では「実現しなければ成り立たない」ということもあります。その一例がフードロスです。宇宙では、食料や水は大変貴重ですので、フードロスゼロを前提として考える必要があります。日本では、フードロスを解決するためには、家庭や個人の協力が大切だと言われている一方で、生産側でのロスもたくさん起きています。このようなロスも少なくできればいいのですが、どこから手をつけていいのかわからないのが現状です。

[図6]Space Food XのSDGsへの貢献
食料生産・資源循環技術等を地球上のビジネスとして活用することで、SDGsの目標達成への貢献を目指す。Space Food Xでは、SDGsの延長線上に惑星移住を見据えている。
出典:Space Food X
Space Food XのSDGsへの貢献

地上だけでは複雑に見える問題も、宇宙を目指すことでシンプルな解決策が見いだせるのではないかという期待もあります。例えば、作物には可食部という考え方があります。地上では、人間が食べにくい部分は捨ててしまうことがよくあります。しかし、限られたものしか運び込めない宇宙では、可食部以外の部分も食べられないかとか、肥料にしようとか、1つのものを徹底的に使い切るように考えていきます。海洋プラスチックに代表されるゴミの問題も近年ニュースになっておりますが、宇宙での生活は極力ゴミを出さないことが求められます。月面基地で1000人暮らすという高い目標を達成しようと知恵を絞るからこそ、その手前にあるSDGsを達成させる技術や知恵も生まれてくると信じています。

── Space Food Xを通して、宇宙技術に感心を持つ人たちは増えましたか。

Space Food Xを立ち上げてから、食やビジネスといった、これまで宇宙とはあまり接点のなかったイベントで登壇する機会が増えました。私たちは、このプロジェクトがSFではなく、将来実現していくという姿勢を大切にして、活動しています。この姿勢が、かつて宇宙に関わりたかった人たちの心をとらえているのではないかと思います。

個人を動かすことで、その人が所属している企業や研究機関が関わるようになったりして、活動の輪が広がっていきます。このプログラムは、ゼロから新しいマーケットを作ろうという試みです。企業をはじめ、皆さんはこの社会をよりよくするための起爆剤を探しています。私たちが夢や未来のビジョンを語ることで、たくさん人が入ってきて、共同研究や投資などにつながり、実現していくのだろうなと少しずつ手応えを感じています。

── 学生や若い人たちとも一緒に活動をしたいという想いはありますか。

Space Food Xでは、一つのターゲットを2040年に定めています。そのときに活躍するのは、今の学生や子どもたちになるので、ぜひとも若い人たちと一緒にこの活動を大きくしていきたいです。私たちが学生だった頃は、宇宙に関わる仕事をしようと思ったら、航空宇宙分野に進むしかありませんでした。宇宙は好きだけれど、数学や理科が不得意だったり、希望する会社に就職できなかったりして諦めた人もたくさんいます。

宇宙産業が広がってきたことで、かつて諦めた人たちの中で、宇宙分野の活動に戻ってくる人が出てきています。若い人たちには、Space Food Xの取り組みを通じて、宇宙への関わり方はいろいろあることを知って欲しいと思っています。

「どんな天才でも夢中には勝てない」という話があります。新しい取り組みを成功に導くのは、最終的に、その人が持つ情熱です。宇宙を通じて世の中をよくしたい、という強い想いがあれば、恐れずにまずは飛びこんで欲しいですね。将来、宇宙ビジネスという言葉がなくなっているくらい、地球上のビジネスと宇宙のビジネスの垣根がなくなって、当たり前の世界がやってきたら最高ですね。

X-NIHONBASHIX-NIHONBASHI

[ 脚注 ]

*9
SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標):2015年9月の国連サミットで採択された、国連加盟193か国が2016年〜2030年の15年間で達成するために掲げた目標。

菊池 優太氏

Profile

菊池 優太(きくち ゆうた)

国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)
新事業促進部 事業開発グループ J-SPARC プロデューサー/Space Food X副代表

人間科学(スポーツ科学)分野の大学院修了後、JAXAに入社。ロケット部門の事業推進や、外部連携による宇宙教育事業等を担当。その後出向した大手広告代理店にて、宇宙コンテンツの企業プロモーション活用やビジネスクリエーション等に参画。JAXA帰任後は、主に非宇宙系企業の参入に向けた新規事業や異分野テクノロジーとの連携企画に加え、宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)の立ち上げ・制度設計に従事。現在は、J-SPARCプロデューサーとして、主に宇宙旅行・衣食住ビジネス、コンテンツ・エンタメビジネス等に関する民間企業等との共創活動を担当、世界初の宇宙食料マーケット創出とSDGs目標達成の双方を目指す「Space Food X」では副代表を務める。ベンチャーから大企業まで様々なパートナー企業や大学、自治体等と共に推進中。宇宙から、食と人と地球の未来を創る。

J-SPARC https://aerospacebiz.jaxa.jp/solution/j-sparc/
Space Food X https://www.spacefood-x.com/

Writer

荒舩 良孝(あらふね よしたか)

科学ライター

東京理科大学在学中より科学ライター活動を始める。宇宙論から日常生活で経験する科学現象まで幅広い分野をカバーし、取材・執筆活動を行ってきた。日々、新発見が続いている科学のおもしろさを、たくさんの人に伝えていきたいと思っている。主な著書は『5つの謎からわかる宇宙』(平凡社)、『思わず人に話したくなる地球まるごとふしぎ雑学』(永岡書店)など。

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