No.022 特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた:我々はどこから来て、どこへ向かうのか

No.022

特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた。我々はどこから来て、どこへ向かうのか。

連載02

ブラックホール研究の先にある、超光速航法とタイムマシンの夢

Series Report

アルクビエレ・ドライブ

ワームホールを使うのとは別の方法で、なおかつ実現の可能性があるかもしれない超光速航法として、1990年代から注目されているのが「アルクビエレ・ドライブ(Alcubierre drive)」という方法である。

これはメキシコの物理学者ミゲル・アルクビエレ氏が考案したもので、アインシュタインの相対性理論に反しない形で超光速航法ができるよう、注意深く理論が練られている。

前述のように、アインシュタインの相対性理論では、どうやっても光速は超えられないとなっている。ただ、これは固定された空間の中にある物体に適用されることであって、空間そのものが膨張している際には当てはまらない。そもそも、なぜ物体が光速を超えられない(とされている)かといえば、もし光より速い物体があれば、未来から過去に情報を伝えることができるようになり、過去の原因によって結果が生じるという「因果律」が崩壊してしまうためである。

しかし、物体が運動する空間そのものが光速を超えて膨張することは可能であり、このことは、宇宙という空間が膨張していることが示している。これまでの観測で、銀河が遠ざかる速度は、距離に比例することがわかっている。銀河との距離が2倍になれば、その銀河が私たちから遠ざかる速度も2倍になり、つまり遠くの銀河ほど速い速度で、すなわちある距離からは光速よりも速く遠ざかっている(ように見える)ということになる。これを「ハッブル=ルメートルの法則」と呼ぶ。

[図7]遠ざかる銀河のイメージ
遠くの銀河ほど早い速度で遠ざかっていくように見えるため、ある距離からは光速よりも早く遠ざかってるように見える
©pixabay
遠ざかる銀河のイメージ

この法則の重要なところは、銀河そのものが光速を超えて移動しているというわけではなく、地球と銀河の間の空間が引き伸ばされていることで、そう見えるということである。つまり、私たちと同じ空間の中において、地球と銀河との相対速度が光速を超えているというわけではないので、相対性理論に反しているわけではない。また、膨張する空間の中の物体が、別の空間から見て光速を超えたように見えたとしても、その物体から別の空間に対して情報を伝えるなどといった影響を与えることはない(できない)ため、因果律に反することもない。

これを踏まえ、アルクビエレ氏は、空間そのものを歪めることで、宇宙船が光速を超えて動いているように見せることができるのではないか、と考えた。そして、「ワープ・バブル」と呼ばれるもので宇宙船を包み、その前側で空間を収縮、後ろ側で空間を膨張させることで、ワープ・バブルに包まれた宇宙船のある空間の座標を変えるという方法でのワープ航法――アルクビエレ・ドライブを考案した。

宇宙(空間)の膨張は光速を超えられるため、外(別の空間)から見れば、その中にある宇宙船が光速を超えたように見えるが、その空間の中、つまり宇宙船自体は光速を超えていないため相対性理論には反しておらず、また宇宙船の中から、その外の空間に対して通信などもできないため、因果律にも反しない。

もちろん、これはそう簡単な話ではなく、このような空間をつくりだすためには、ワームホールと同様に負の質量をもったエキゾチック物質が必要になり、またその必要なエネルギー量は、なんと宇宙1個分を超えるほどになるとされた。

その後、別の科学者などによって、ワープ・バブルについて、バブル(泡状)ではなくリング状にすれば必要なエネルギーが少なくできるといった研究発表があったり、また米国航空宇宙局(NASA)の研究チームが、アルクビエレ・ドライブを用いた宇宙船「IXSエンタープライズ」の概念を発表したり、あるいは、そもそも不可能であるとする研究発表が出されたりなど、いまなおさまざまな研究や議論が続いている。

Cross Talk

本間教授に聞く!史上初、ブラックホール撮像成功までの道程

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連載02

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