No.022 特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた:我々はどこから来て、どこへ向かうのか

No.022

特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた。我々はどこから来て、どこへ向かうのか。

連載02

ブラックホール研究の先にある、超光速航法とタイムマシンの夢

Series Report

超光速粒子「タキオン」は存在するか

もうひとつ、相対性理論に矛盾しない形で光速を超えるものとして、古くから研究されているのが、「タキオン(tachyon)」と呼ばれる超光速で移動できる粒子である。

タキオンは、前述したエキゾチック物質のひとつとして考えられている粒子で、つねに光速を超える速度で運動しており、また通常の物質とは逆に、エネルギーを失えば失うほど加速していくとされている。

タキオンの概念は、1904年に物理学者のアルノルト・ゾンマーフェルト(1868~1951)によって提唱され、その後米国の物理学者ジェラルド・ファインバーグ(1933~1992)らによって研究が進められた。ちなみに、この粒子をタキオンと命名したのもファインバーグである。

タキオンの存在はあくまで理論上考えられうるというもので、現在のところ実際に観測されたという事例は存在しない。2011年9月には、国際共同実験「OPERA(オペラ)」の科学者チームが、CERNで行った実験で、「素粒子『ニュートリノ』は、光よりも60ナノ秒速いことが判明した」と発表し、「すわタキオンが見つかったか」と科学界に大きな激震が走った。しかし、翌年6月に実験装置の誤差などによる誤りであったことが判明。安堵と落胆が訪れたのは記憶に新しい。

そもそも科学者の中では、タキオンのような粒子は存在しないか、あったとしても発見は不可能ではないかという意見が強い。それでも、検出や観測を目指した挑戦が続いている。

科学者たちは、もしタキオンを観測できるとするなら、チェレンコフ放射を利用できるのではと考えている。チェレンコフ放射とは「荷電粒子がある物質内で運動する際、その物質中の光速よりも速く運動すると光(チェレンコフ光)が出る」現象のことである。

この仕組みを利用していることで有名なのが、岐阜県の神岡鉱山跡に造られた「カミオカンデ」や「スーパーカミオカンデ」といった、ニュートリノ観測装置である。1987年2月23日、岐阜県の神岡鉱山跡に造られた「カミオカンデ」という観測装置が、超新星爆発からのニュートリノを史上初めて観測。この功績により、2002年には日本の物理学者・小柴昌俊氏がノーベル物理学賞を受賞した。

[図8]スーパーカミオカンデ
写真提供:東京大学宇宙線研究所 神岡宇宙素粒子研究施設
スーパーカミオカンデ

このカミオカンデは、まずあらかじめタンクに水を貯めておき、ニュートリノが飛んで来るのを待つ。そして、飛んできたニュートリノが、水(酸素と水素)の原子核や電子と衝突したとき、荷電粒子が叩き出される。前述したように、水中での光の速度は真空中の秒速約30万kmの約75%になるため、もしこの荷電粒子が、それよりも速く水の中を移動すれば、チェレンコフ光が発生する。その光を検出することで、ニュートリノを観測している。

タキオンの観測にも、これと同じ方法を使う。もし光速よりも速い、つまり真空中で秒速約30万kmよりも速く飛ぶ粒子が存在し、かつそれが電荷をもっていれば、真空中でチェレンコフ光が発生するかもしれない。それが確認できれば、光速より速い粒子、すなわちタキオンが存在することの証明になる。

もし、タキオンのような物質が存在するなら、情報をはるか遠くにまで瞬時に送ることができる。また、タキオンに宇宙船や人間などを乗せることができればワープが可能になり、あるいは宇宙船や人間などを量子レベルにまで分解し、タキオンに乗せて飛ばし、目的地で再物質化する、『スター・トレック』の転送装置のようなこともできるかもしれない。

そして、タキオンの存在は、もうひとつ別の科学の魅惑の扉を開く。超光速で情報や物質を送れるということは、じつはタイムマシンの実現にも直結しているのである。

[第3回へ続く]

Writer

鳥嶋 真也(とりしま しんや)

宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。

国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。主な著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、論文誌などでも記事を執筆。

Webサイト http://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info

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