連載02
ブラックホール研究の先にある、超光速航法とタイムマシンの夢
Series Report
タイムマシンを実現する鍵は浦島太郎にあり
このアイディアを考案したソーン氏は、その後、同僚からの指摘もあり、この方法で超光速航法ができるならタイムマシンもできるのではないか? と思いつく。まず、ワームホールの入口を地球に置き、出口をロケットに載せ、光速に近い速さで移動させたのち、地球に帰還させる。すると、タイムマシンができるというのである。
狐につままれたような話だが、この理論の基礎にあるのは「ウラシマ効果」というものである。相対性理論では、時間の進み方は見る人の場所によって変わる、すなわち相対的であるとされており、速く移動するものは、外から見ると時間の流れがゆっくりになって時間差が生じ、また速度差が大きければ大きいほどその時間差も大きくなる。さらに光速に近づくにつれて、その物体の時間の進み方はゼロに近くなり、つまり時間が止まったかのように見える。たとえば、ほぼ光速で飛べるロケットに乗り、その中で1年過ごすと、地球上では50年もの年月が流れるのである。
ちなみにウラシマとは、昔話の『浦島太郎』で、竜宮城に小一時間しか滞在していなかったにもかかわらず、浦島太郎が砂浜に戻ってくると、友達がみんな老人になっていた、という話に由来する。もちろん、この話が創られたころにはタイムマシンの概念はなかったが、たとえば助けた亀に乗った浦島太郎が光速に近い速度で移動していたとしたら、この話の辻褄が合う。
そして、このウラシマ効果とワームホールをうまく使えば、理論的にはタイムマシンを作ることができる。まず、2020年にワームホールを作ったとする。このとき、ワームホールの両側の出入り口の時間は、同じ2020年である。次に、一方の口だけを宇宙船に乗せ、光速に近い速さで飛ばしたのち、地球に帰還させる。すると、地球は2030年になっているのに、宇宙船の中は2021年にしかなっていないということが起こる(この時間差は宇宙船がどれだけ光速に近い速度で飛ぶかによって変わる)。
そして、2030年の地球の人がその宇宙船に乗り込み、中のワームホールに入る。すると、そのワームホールは2021年の時間にあるため、それを抜けた先も同じ時間、すなわち2021年の地球に行くことができるのである。
もちろん、これにはまず、前述のようにワームホールが本当に存在し、そして負の質量をもったエキゾチック物質が本当に存在して、人や宇宙船が通れるようなワームホールを人工的に作り出せることができ、さらにワームホールの位置を自由に動かすことができるなら……という、いくつもの条件がつく。現時点では、そのどれもが実現しておらず、見込みも立っていない。
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超光速粒子「タキオン」で過去に情報を送る
人や宇宙船ごとタイムトラベルするのは難しいかもしれない。しかし、それとはまた別の方法で、そしてもう少し簡単そうな方法が、第2回で触れた超光速粒子「タキオン」を使って過去に情報を送るというアイディアである。
タキオンはエキゾチック物質のひとつと考えられている粒子で、つねに光速を超える速度で運動しているとされている。あくまで理論上考えられうるというもので、これまでに実際に観測されたことはないが、仮にタキオンが存在し、そしてその粒子を、電波や光のように利用して通信ができるとしたら、過去にも未来にも情報を送ることができると考えられている。
ここで使うのは、ワームホールを使ったタイムトラベルでも使った、光速に近い速度で飛ぶ宇宙船とウラシマ効果である。まず、地球から宇宙船を光速に近い速さで打ち上げる。そして、地球上の時間である程度が経ったころに、タキオンを使って地球から宇宙船に向けて情報を送る。超光速で飛ぶタキオンは、すぐに宇宙船に追いつき、その情報が伝えられる。このとき、宇宙船の中の時間は、情報を送った地球の時間よりも大きく遅れているため、たとえば地球の時間で2050年に情報を送ったら、宇宙船の時間では2050年よりも前にその情報が届くことになる。
そしてこのとき、宇宙船側からは、地球のほうが光速に近い速さで遠ざかっているように見えている。つまり宇宙船からすれば、地球のほうが時間の流れが遅くなっているのである。そして、宇宙船から地球に向けて、先程届いた情報をそのままタキオンで送り返すと、宇宙船の中の時間よりもさらに過去の地球に、すなわち情報を送った2050年よりも前に、その情報が届くことになるのである。
少し釈然としない感じもするが、前述のように時間の進み方は見る人の場所によって変わる(相対的である)ことから、理論的には矛盾していない。
もし、こうしたタキオン通信が実現すれば、たとえば番号選択式の宝くじの当たり番号を過去の自分に教えたり、事故に遭う前の自分に気をつけるように忠告したりといったことができるかもしれない。
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