No.022 特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた:我々はどこから来て、どこへ向かうのか

No.022

特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた。我々はどこから来て、どこへ向かうのか。

連載02

ブラックホール研究の先にある、超光速航法とタイムマシンの夢

Series Report

タイムマシンはすでに存在する!?

ここまで、とても実現しそうにないタイムマシンについて見てきたが、最後に、すでに存在するタイムマシンについて紹介したい。

前述したウラシマ効果では、光速に近い速度で飛ぶ宇宙船を例に出したが、じつはそこまで速くなくても、ウラシマ効果は起こることがわかっている。

たとえば、地上と人工衛星にそれぞれものすごく正確な時計を置き、時間の流れ方を見比べると、秒速数kmの速さで地球を回る衛星の時計は、地上の時計よりもゆっくり進むことが実際に確認できる。ちなみに、スマホなどでおなじみのGPS(グローバル・ポジショニング・システム)は、衛星から正確な時間を発信することで測位・航法などを行っているが、この時間のずれが大きな問題になるため、地球上の時計と完全に一致するように、GPS衛星に搭載されている時計は1秒間に100億分の4.45秒遅く進むよう補正されている。

人工衛星に限らず、時間の相対性はどんなものの間でも生じる。たとえば立ち止まっている人と飛行機、新幹線、自動車の間でも、私たちが気づかないほどきわめて小さいものの、時間の進み方に差が生まれているのである。

[図7]地上と人工衛星に、それぞれものすごく正確な時計を置き、時間の流れ方を見比べると、秒速数kmの速さで地球を回る衛星の時計は、地上の時計よりもゆっくり進むことが、実際にわかっている。
©Pixabay
地上と人工衛星に、それぞれものすごく正確な時計を置き、時間の流れ方を見比べると、秒速数kmの速さで地球を回る衛星の時計は、地上の時計よりもゆっくり進むことが、実際にわかっている。

ウラシマ効果では未来に、それも現代の科学力では誰も気づかないほどの、ほんの少しの未来にしか行けないが、それとは別に過去を見ることができるタイムマシンもある。

第2回で触れたように、光の速度は有限である。そのため、遠くにある天体の光が地球に届くまでには、その距離に応じて時間がかかる。たとえば、私たちの頭上でさんさんと輝く太陽なら約8分前、オリオン座の「ベテルギウス」なら約642年、アンドロメダ銀河なら約250万年前に出された光が地球に届いている。つまり、天体望遠鏡で遠くの宇宙を見るということは、昔の宇宙を見ているということなのである。

そして、もしかしたら私たちは見ている側だけでなく、見られている側かもしれない。この宇宙には無数の恒星があり、そこにはさらに無数の惑星が回っている。地球からほんの数十光年以内にもいくつもの恒星があり、これまでの観測で地球に似ている可能性がある惑星もいくつか見つかっている。

もし、どこかの惑星に地球のような、あるいは地球より進んだ文明があれば、望遠鏡を使って、私たちの過去の行いを覗かれているのかもしれない。

過去から学び、より良い未来を創っていくこともまた、ある意味でタイムマシンであり、そしてその最もいい使い方なのかもしれない。

[図8]望遠鏡を使って遠くの宇宙を見るということは、じつはタイムマシンなのかもしれない。
©NASA/JPL-Caltech
地上と人工衛星に、それぞれものすごく正確な時計を置き、時間の流れ方を見比べると、秒速数kmの速さで地球を回る衛星の時計は、地上の時計よりもゆっくり進むことが、実際にわかっている。

Writer

鳥嶋 真也(とりしま しんや)

宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。

国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。主な著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、論文誌などでも記事を執筆。

Webサイト http://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info

Cross Talk

本間教授に聞く!史上初、ブラックホール撮像成功までの道程

本間教授に聞く!
史上初、ブラックホール撮像成功までの道程

前編 後編

Series Report

連載01

系外惑星、もうひとつの地球を探して

地球外知的生命体は存在するのか?

第1回 第2回 第3回

連載02

ブラックホール研究の先にある、超光速航法とタイムマシンの夢

過去や未来へ旅しよう!タイムマシンは実現できるか?

第1回 第2回 第3回

TELESCOPE Magazineから最新情報をお届けします。TwitterTWITTERFacebookFACEBOOK