No.022 特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた:我々はどこから来て、どこへ向かうのか

No.022

特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた。我々はどこから来て、どこへ向かうのか。

連載02

ブラックホール研究の先にある、超光速航法とタイムマシンの夢

Series Report

タイムパラドックスと時間順序保護説

ところで、もしタイムマシンやタイムトラベル、過去への通信が実現したら、とても大変なことが起こってしまう。

1985年の映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では、主人公のマーティが、ひょんなことから30年前にタイムスリップし、自分の父と母が出会うきっかけを邪魔してしまう。2人が結ばれなければマーティが生まれることもないため、自分の存在が消滅する危機に直面。それを回避するために奮闘する様子が描かれる。

[図5]映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』にタイムマシン “デロリアン”として登場する『DMC-12』
Grzegorz Czapski / Shutterstock.com
タイムマシンのイメージ

このように、もしタイムマシンが実現し、過去に行って自分が生まれてこないように改変したとすると、自分という人間は存在しなくなるため、タイムマシンで過去を改変することもできなくなってしまう。ところが、過去を改変しなかったら、自分は生まれるはずであり、タイムマシンで自分が生まれる前の時代に行くことが可能になり……と、話が堂々巡りになる。あるいは、前述のタキオン通信の活用例でいえば、過去の自分が宝くじで大金持ちになったり、遭うはずだった事故に遭わずにすんだりと、過去と現在に矛盾が生じてしまうのである。

実際に、過去と現在に矛盾が生じるようなタイムパラドックスが起こった場合、自分や世界はどうなるのか? ということを巡っては、さまざまな仮説がある。

たとえば「多世界解釈」という考え方では、過去にさかのぼって自分の出生を改変した時点で、「過去を改変していない宇宙」と「過去を改変した宇宙」(並行宇宙)とが生まれるとされる。その結果、自分は「過去を改変していない宇宙」で生まれたので消えることはなく、その一方で「過去を改変した宇宙」が生まれ、自分が存在しない世界が続いていくのだという。

別の仮説では、この世には因果律、すなわち原因と結果の間には一定の関係が存在するという原理を、厳格に守ろうとする力が存在し、過去を変更しようとしても、なんらかの形で邪魔が入って、どうやっても過去を改変することができないという考えもある。さらに、過去を変えた結果、その変えた過去のほうが真実となり、つまり自分は過去を改変せずに存在しているということに落ち着く、という説もある。つまり「過去に戻ろう」、「過去を改変しよう」といった、人間が自分の意志で決めたはずのことも含め、すべての物事は因果律が支配しており、すなわち人間の自由意志など幻想に過ぎないという前提に立った仮説である。

こうしたなかで、とりわけ「タイムトラベルは不可能」と強く主張していたのが、かの有名な理論物理学者スティーヴン・ホーキング(1942~2018)である。彼は1990年に「時間順序保護仮説(Chronology Protection Conjecture)」という仮説を立て、ソーン氏の研究などのように、たとえ相対性理論のうえでは矛盾しないタイムマシンが仮定できるとしても、相対性理論と並んで現代物理学の根幹をなす「量子論」によって、因果律は保護されているのではないかと提唱。実際にはワームホールは量子重力的不安定性により壊れて通ることはできず、それを維持するには無限大のエネルギーが必要である、すなわち不可能であるとしている。

彼はまた、「量子論がタイムパトロールの役割を果たすに違いない」という比喩を用いて、この仮説を説明している。

[図6]タイムパラドックス:もしタイムマシンが実現し、それに乗って自分が生まれる前の時代に行き、過去を改変した場合、自分という存在はどうなるのか?
タイムパラドックス
Cross Talk

本間教授に聞く!史上初、ブラックホール撮像成功までの道程

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連載01

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地球外知的生命体は存在するのか?

第1回 第2回 第3回

連載02

ブラックホール研究の先にある、超光速航法とタイムマシンの夢

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