No.022 特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた:我々はどこから来て、どこへ向かうのか

No.022

特集:新たな宇宙探究の時代がやってきた。我々はどこから来て、どこへ向かうのか。

Visiting Laboratories研究室紹介

木村 真一教授

地上にある民生部品を使って、安くて性能の良いカメラを実現

TM ── なぜ宇宙用部品には、性能は低く価格は高いという欠点があるのですか。そして、それはどう解決できるのでしょうか。

木村 ── ひとえに故障してほしくないからです。宇宙に行ってしまうと修理することができませんから、古いけれど信頼性が高いものを使わざるを得ません。そして、宇宙はマーケットがまだまだ非常に小さく、数が出ないため、性能は低いにもかかわらず、価格は高いということになるのです。そこで、すでに地上で使われている部品(民生用部品)を活用しようと考えました。民生用部品は宇宙用部品に比べて、“高性能で価格が安い”からです。

まわりの人からは「宇宙は特殊な環境だから、民生部品なんてすぐ壊れるよ」と言われました。たしかに宇宙は真空で、強い放射線が飛び交っています。ですが、本当に壊れるのか? 壊れないのか? ということを試した人はいなかったのです。だったら試せばいいじゃないかと考えました。

たとえば放射線の問題は、地上でも放射線を当てることで試験ができます。そして実際に試験すると、たしかに壊れるものもありました。ですが、壊れ方には程度があり、またどういうふうに壊れるか、どういうふうに性能に変化が出るのかにも違いがあり、そうしたことがわかれば、対策の立てようがありました。そして試験やシミュレーションを重ねた結果、宇宙でも十分動く民生部品を、いくつか見つけることができ、それらを組み合わせることで、衛星や宇宙用ロボットを造れることがわかりました。

また、民生部品を使う場合は、偶発的な故障がどうしても避けられず、100%壊れないようにするのが難しいこともわかりました。しかし、部品がひとつ故障しても、故障を検知して、その部品の使用を除外するなどし、システム全体としては動き続けられるようにすればいいわけです。

Breakout BOX
搭載機器同士の接続をモニターしたり、接続の配線を変えて試してみたりするために使う装置。故障した部品を使わずにシステムを動かす際の状況などを試験できる。
出典:東京理科大学木村研究室
Breakout BOX

木村 ── 私は東京大学の薬学部出身で、もともとは生物の「適応性」の研究をしていました。たとえば猫は大脳を切除しても、延髄の一部に刺激を与えることで歩くことができ、さらに小脳を切除しても、支えは必要ですが、歩くことができるのです。さらに大脳と小脳がなくても、トレッドミル(ランニングマシン)に乗せると、歩いたり走ったりを切り替えられることもわかりました。このときの経験が、この研究に活きています。

TM ── そのような考えはすぐに周囲に受け入れられたのでしょうか。

木村 ── なかなか難しかったです。とくにメーカーさんには受け入れてもらえませんでした。民生品を使った装置を造って欲しいと頼んでも、「無理でしょう」と言われてしまうのです。それなら自分たちで造ってしまおうと考え、学生と一緒に開発することにしました。その結果、「木村製作所」とまで呼ばれるほどになりました。今では、民間企業の衛星に搭載するカメラを開発したり、技術協力したり、さらに衛星に搭載する計算機の製作を手がけたりもしています。

宇宙というのは特殊な環境ですが、ものすごく特殊というわけではなく、ある勘所を押さえることで、民生部品でも十分に活用できるということを私たちは示しました。こうした、地上の技術を宇宙に結びつけていくというプロセスは、スペース・コロニーの実現にも役立つと考えています。

TM ── 先生の指導方針について教えてください。

木村 ── 先ほどもお話したように、私は薬学部の出身なのですが、卒業時に就職先に悩み、いろいろ相談したり考えたりした結果、通信総合研究所(現在の情報通信研究機構)に入りました。そして、いきなり技術試験衛星VII型「きく7号」(ETS-VII)という宇宙ロボット衛星の開発に従事することになったのです。当時の私は、宇宙についても、ロボットについても、まったく知識がありませんでした。

このとき、私は本気で勉強したのですが、実際に衛星を造る、つまり“本物の現場”の中で学ぶことは、本物の力として身に付き、その現場に溶け込んでいけるということがわかりました。

その経験から、私の研究室では、学生のうちから本物の現場に放り込むことにしています。先ほどお話ししたように、実際に衛星に搭載するカメラを造ったり、そのための設計や試験を自分でやったり、開発の第一線を経験してもらうようにしています。すると、わからないことを自分の力で切り開いていく力が身に付きますし、本物の中で勉強したということは自信にもなります。

また、カメラというのは、小さいものですが、立派なシステムでもあります。電気回路やレンズ、筐体の構造、ソフトウェアなど、さまざまな技術の集合体なので、どれかひとつだけわかっているだけでは造れません。カメラの開発を通じてシステムとしてのものづくりを学べるという点も大きいです。

そして、宇宙開発はチームワークが重要なので、そのスキルも自然に身に付きます。さらに、衛星開発の現場ではいろんな分野や専門の人に会えるので、そこでの交流も大きな糧になります。

木村 真一教授
Cross Talk

本間教授に聞く!史上初、ブラックホール撮像成功までの道程

本間教授に聞く!
史上初、ブラックホール撮像成功までの道程

前編 後編

Series Report

連載01

系外惑星、もうひとつの地球を探して

地球外知的生命体は存在するのか?

第1回 第2回 第3回

連載02

ブラックホール研究の先にある、超光速航法とタイムマシンの夢

過去や未来へ旅しよう!タイムマシンは実現できるか?

第1回 第2回 第3回

TELESCOPE Magazineから最新情報をお届けします。TwitterTWITTERFacebookFACEBOOK